私としたことが!
渡辺淳一作品という、強いイメージに目隠しされて、全くノーチェックだった「失楽園」。
たまたまつけたCSで放送されていて初めて観たのだが、森田芳光監督、筒井ともみ脚本作品だった…。
こんな、80年代の日本映画を引っ張っていた重鎮が作った作品だったなんて…知らずにいたのが、お恥ずかしい。
渡辺淳一作品の小説をちゃんと読んだのは「愛の流刑地」が初めて。
噂に聞いてはいたが、なかなか露骨で「上質なエロ本」である。
なんやかんや言い訳しながら、とにかくヤリまくる。
それでいて、どこか上品にまとめていて、さらには渡辺淳一自体の「本業は医者」というところがなんとなくエロ本読んでても許されるような、高級感を漂わせるから、不思議である。
電車の中で、日経の愛ルケ連載部分を熟読していても何も言われないけれど、スポーツ新聞のエッチな面を熟読していたら、近くにいるOLはものすごくいやな顔をする。私だって、する。
さらには、それが映画化されたら、スポーツ新聞のそれはどうしたって、日活ロマンポルノがいいとこだけれど、渡辺先生の作品になると、寺島忍が出る、トヨエツだってケツを出すというわけだ。
そんなイメージでいっぱいになりながら、なかなか手がつけられずにいた「失楽園」だったのだが、実際に観てみたら、なんか、ものすごく、裏切られた。
そもそも、森田芳光は、この広い世界に生きている小さな一人の人間が、必死にいろいろ考えながら、それを表に出さずに涼しい顔して生きている、多くの人間の生態みたいなものを、滑稽に、時として愛らしくとらえる人だと思う。
人生を謳歌してきた男が、走り続けていた足の衰えを突然感じてしまったり、疲れを感じてしまった時の刹那や、それを「どうってことないさ」と笑い飛ばそうとする情けなさみたいなものが描かれていて、非常に寂しい。
テーマとして、中年男女の性がベースに流れているので、もちろん性描写はあるものの、元々森田監督にはエロティックという文字があまりないのか、いやいやとてもロマンティックな人なのだろう、どこかおとぎ話的な、イメージ的な表現の仕方なので、わりとあっさりしていた。
一方先日の情事を思い出して、タクシーの中でニヤニヤする役所広司が、意外と一番エロいのである。
必死に黒木瞳を呼びだそうと、髪を振り乱しながら携帯で力説する役所がエロい。
ホテルで、ドアののぞき穴から廊下を覗きながら、部屋にやってくる黒木を待ちわびる役所がとにかくエロい。
セックスシーンより、服を着て、いそいそしている役所が、とんでもなくエロいのである。
よくわかっていらっしゃる、筒井ともみ。女はこういう男のダサイの姿に欲情し、度が過ぎると引く。
そういった部分は、あっぱれなのである。
生々しいセックスシーンを期待して観ると、少し物足りなさがあるかもしれない。
でも私には、こういった描写の方が、よっぽど生々しく感じられた。
仕事にも愛想尽かされ、嫁にも呆れられた男の行きつく先。
それが、黒木瞳のような、欲情した人妻に「あなたに出会って、本当のセックスと愛を知った。ずっとあなたとセックスして一生を終えたい」と言われたら、どんなに幸せなことか。
しかしながら、そんなこと、あるわけないんだからなと、世の中年既婚男性に言いたい。
寝付かれぬ夜に、昔振られた男から突然に「よりを戻したい」と電話がかかってきて、私には今素敵な相手もいて、幸せな生活があると、バッサリ振ってやる。
竹内まりやの歌のような、気持ちがいいことが、女に起きないのとおんなじである。
世の中、そんなに甘いもんじゃないんだぞ。
『失楽園』
監督:森田芳光
原作:渡辺淳一
脚本:筒井ともみ
出演:役所広司、 黒木瞳、星野知子、柴俊夫、寺尾聰他


