βラクタム系抗菌薬として分類されている抗菌薬には、ペニシリン系、セファロスポリン系、カルバペネム系、モノバクタム系があります(あと幾つかありますが省略します)。共通の構造としてβラクタム環を持ち、周囲の側鎖によって様々な種類があります。βラクタム系抗菌薬は細菌の細胞壁の合成を阻害することによって抗菌作用を示します。

 

 

セファロスポリン系アレルギー

 セファロスポリンによるアレルギーの頻度はペニシリン系の1/10程度とされています。そのほとんどは側鎖に対するアレルギーだと考えられています1)。ペニシリン系の側鎖は1本ですが、セファロスポリン系はR1R22本の側鎖を持っています。

上図のように、違う種類のセファロスポリン系抗菌薬でも、同じ側鎖を持っていることがあります。したがって、側鎖に対するアレルギーである場合は、違う種類の抗菌薬(例えばロセフィンとバナン)であってもアレルギー反応が起こり得ます。また、セファロスポリン同士だけでなく、ペニシリン系(スルバシリンやアモキシシリン)や、モノバクタム系(アズトレオナム)でも同じ側鎖を持っていることがあります。

 セファロスポリンに対するⅠ型アレルギーは、ペニシリンアレルギーのように、時間の経過と共に消失することがあります。セファロスポリンに対するⅠ型アレルギー患者を5年間前向きに追跡したところ、68%の患者は皮膚テストが陰性になっています2)

 

ペニシリン系抗菌薬とセファロスポリン系の交差反応

  セファロスポリンはペニシリンと形が似ているため、交差反応が起こりやすいかと思われるかも知れませんが、実はそうでもありません。ペニシリンアレルギーはほとんどは、ペニシリンの代謝産物(と結合した蛋白)がアレルゲンとなって起こります。βラクタムの系統によって構造は少しずつ異なっており、体内での分解過程も違うため、ペニシリンアレルギーの患者がセファロスポリン系やカルバペネム系の抗菌薬に同じようにアレルギー反応を示す頻度はそれほど大きくありません。ただし稀に側鎖に対するアレルギーの患者も存在するので、ペニシリン系とセファロスポリン系でも、同じ側鎖を持つ抗菌薬は避けた方がよいとされています(スルバシリンとケフラールなど)

 上図のように、ペニシリン系とセファロスポリン系でも同じ構造の側鎖を持っていることもあるので、アレルギーを起こした抗菌薬が分かれば、同じ側鎖を持つ抗菌薬は避けるべきです。

 ペニシリンアレルギーの患者がセファロスポリン系抗菌薬と交差反応を起こす確率は、第1世代、第2世代で約10%、第3世代で23%と言われています3)。ただしもう少し低い数値の記載もあります。UpToDateによると、1980年以前のセファロスポリンにはペニシリンが混入しているため、その時代の研究では交差反応の数値が高めに出るといいます。1980年以降の研究に限定して分析すると、ペニシリンとセファロスポリンの交差反応は2%となります4)。第3世代のセファロスポリンは第1、第2世代と比較して交差反応のリスクが少ないかも知れません。ただし、もしもアレルギーを起こしたペニシリンの種類が分かっているのなら、同じ側鎖のセファロスポリンは避けるべきです。

 

ペニシリン系抗菌薬とカルバペネム系の交差反応

 ペニシリン系でⅠ型アレルギーが疑われた場合のカルバペネムの交差反応は全体で4.3%、Ⅰ型アレルギーは2.4%と報告されています。一方、セファロスポリンでアレルギーが疑われた場合のカルバペネムとの交差反応は25%と報告されており、注意が必要です5)

 

ペニシリン系抗菌薬とモノバクタム系の交差反応

 ペニシリンとアズトレオナム(利用可能な唯一のモノバクタム)の間には免疫学的な交差反応がないことが実証されているため、ペニシリンアレルギーの患者にも安全に投与できます4)。ただしアズトレオナムと第三世代セファロスポリンのセフタジジムは共通の側鎖を持っているため、両者の間には交差反応があることが報告されています。

 

ペニシリン系同士の交差反応

 ペニシリン同士の交差反応は側鎖の類似性が関係していると言われています。具体的には、側鎖の構造が類似しているアンピシリンとアモキシシリンは交差反応を起こし易く、類似性が少ないアンピシリンとピペラシリンは交差反応を起こしにくいということです6)7)

 

 

ペニシリン以外の抗菌薬の皮内テストについて

 意外なことかもしれませんが,皮内試験で信頼性が確認されている抗菌薬はペニシリンだけです。ペニシリン以外のほとんどの薬物では原因抗原がはっきりしていないため,皮内試験に信頼性はありません。「薬物自体をなぜ皮内試験に使えないのだろうか」という疑問を持った方もいるかもしれませんが,薬物の多くは代謝されて無数の物質に変化しますし,体内のタンパク質と結合したときのみ抗原として働く場合もあり,局所反応だけでみる皮内試験では限界があるのです8)

 

まとめ:ペニシリンアレルギー(?)を指摘されている患者に抗菌薬を投与するための条件

 大抵の薬剤なら、アレルギーの疑いがある~アレルギーがある場合は、その薬剤を避ければよいのですが、ペニシリンをはじめβラクタム系の抗菌薬を避けるのは患者の不利益が大きすぎます。何より重症の感染症の場合は命にかかわります。「蕁麻疹を避けるために肺炎で命を失った」では本末転倒です。

 いわゆる「ペニシリンアレルギー」の90(アメリカの場合)が、真のペニシリンアレルギーではなく、ペニシリンを安全に投与できるとされています9)10)。ペニシリンと類似のβラクタム系抗菌薬の交差反応でも、セファロスポリン系は約2%、カルバペネム系も数%と、低い数値を示しています4)5)。モノバクタム系抗菌薬にはペニシリンとの交差反応は認められていません。

 したがって、ほとんどの患者ではβラクタム系抗菌薬は安全に投与できるということになります。「ペニシリンアレルギー」の患者に出会った場合、まずは問診を行い、リスクを層別化します(問診で聞くべき要点は前回の記事に記載しています)

・軽:アレルギーらしくない~ごく軽度(ほとんどがこれのはずです)

・中:蕁麻疹や喘息症状が出現している(危険かも知れない。専門医がいないならセファロスポリンかカルバペネムのtest dose法を)

・重:アナフィラキシーや重症薬疹の既往(非専門医が手を出すのは危険)

のように分類します。

 「軽」なら非専門医でもtest dose法が可能だと思います。内服のアモキシシリンチャレンジならアナフィラキシーを起こす可能性はほぼ0(世界で1例のみ)なので、安全に施行できるはずです。本当は皮内テストから入りたいところですが、残念ながら日本では21世紀の初頭に発売中止になっています。

層別化した後、以下の表のように、処方したい抗菌薬別に整理します11)。この表は教科書やレビューを元に当院で作ったものなので、別に絶対の指標ではありませんが、参考までに。

 「軽」ならセファロスポリンで問題が起きる可能性はほぼないでしょう。ただし、どうしてもペニシリンが望ましい菌(グラム陽性連鎖球菌、特に腸球菌など)が標的の場合はペニシリンチャレンジが必要になります。

 
 
 
 
参考文献

1)jmed 18 あなたも名医! アレルギー? 大丈夫、恐れるに足らず 岡田正人 編 日本医事新報社

2)Romano A, Gaeta F, Valluzzi RL, et al. Natural evolution of skin-test sensitivity in patients with IgE-mediated hypersensitivity to cephalosporins. Allergy 2014; 69:806.

3)Arvind Madaan, James T-C Li. Cephalosporin allergy. Immunol Allergy Clin North Am. 2004;24:463-476

4)UpToDate:Allergy evaluation for immediate penicillin allergy: Skin test-based diagnostic strategies and cross-reactivity with other beta-lactam antibiotics

5)Brittany Kula, Gordana Djordjevic, Joan L Robinson. A systematic review: can one prescribe carbapenems to patients with IgE-mediated allergy to penicillins or cephalosporins? Clin Infect Dis. 2014;59:1113-1122

6)Japanese Journal of Pharmaceutical Health Care and Sciences 2008:31(2):299-304

7)日本大学医学部ICU感染ラウンド 第25回 第26

8)https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2010/PA02874_10

9)Evaluation and Management of Penicillin Allergy: A Review.JAMA 2019 ;321 (2): 188-199

10)Mariana Castells et al. Penicillin Allergy. N Engl J Med 2019; 381:2338-2351

11)抗菌薬ドリル 羽田野義郎 編 羊土社