竜雲、南座から帰って来てから今日までほとんど全く休む時間もないまま(空いている時間は回復のために寝るだけでした)でした(笑)
遠征から帰って休めればよかったのに、なんでと思いながら今日になりました(笑)繁忙期だからって…12月ってどうしてこうなんだろう
今日は国立劇場に「蝙蝠の安さん」を観に行ってきました松本幸四郎さんのチャップリン歌舞伎です
起きて15分後には家を出ないと「蝙蝠の安さん」にも間に合わないような時間に起きまして…
(午前中、用事を済ませたかったのに体が回復を求めまして…何度も意識を失って寝てしまいました)
そんな状況で国立劇場に行こうか悩んだんですがせっかくチケットがあるので行ってきました
私はチャップリンの映画は観たことがないですし、特に興味を持ったこともないまま 今まで過ごして来た人間です。(映画鑑賞をすることは好きです)
幸四郎さんがチャップリンの「街の灯」を歌舞伎にして上演すると聞いた時も「へぇ、蝙蝠安が主人公なの?」とは思いましたが、特に観に行こうとは思っていませんでした。
しかしいただいたコメントでもツイッターでもこの「蝙蝠の安さん」の評判が良く、それなら観に行ってみますか〜と思ったのでした
チャップリンのことは何も知らないので、さすがにパンフレットを買いました。
幸四郎さんの動きが面白くて、それだけでもクスッと笑える冒頭冒頭は大仏開眼なんですが…
最初に役者さんが花道から出て来て口上を始めるんです。『お、新作歌舞伎だから口上から始まるのね』と思ったら話しているのは大仏のことばかりで… 騙されましたw (だまし効果を狙っているかはわかりませんが多分 狙ってないと思うw)
幸四郎さんの蝙蝠の安さんが大仏の手で寝てたり、鼻から出そうになってたり、ワイヤーで飛んでたりかなり可笑しい蝙蝠安にしては、なんか可愛いとりあえず、冒頭 面白いw
場面変わって花道からは小舟で登場は大店の主人の市川猿弥さん(上総屋新兵衛)
奥さんを亡くして酒浸りの日々なのです…
猿弥さんといえば面白いお役のイメージが強いですがシリアスな旦那(新兵衛はシラフの時はとてもシリアスな人です)も似合っていて、面白いだけじゃない 芸の幅の広い役者さんだなぁと改めて感服…
橋の上。
花を売る娘…坂東新悟さんの演じるお花です。
目が見えなくて、何かといえば「お気の毒です…」ばっかり言っています
蝙蝠安は一目惚れして、お花さんのお花を全部買ってあげるのですがそれにも「お気の毒でございます…」なんて言っていて可笑しかったです
それにしても坂東新悟さんを見ていると「オグリ」の照手を思い出してしまって、また観たくなってきました
新悟さんの演じるヒロイン、いいですよねぇ
ちなみに背景にちゃんと、開眼した大仏様が遠くに描かれていて面白かったです
安さんはお花に一目惚れしましたが(わかりやすくて可愛いw)お花は目が見えないのです。
ちょうどその時、駕籠かきの「旦那ー!」という声と乗り込む他の人がいて、お花は安さんをどこかのお金持ちの旦那だと思い込んでしまいました
安さんはどうやらその辺りを寝ぐらにしているみたいでしたが(設定では『ルンペン』らしいですよ)その辺の屋敷の者だと言っていて可笑しかったですw
なんとその橋の下が安さんの寝ぐらww
自殺してしまおうと、市川猿弥さん演じる新兵衛がやってきます。
で、安さんが気づいて止めようとするんですが、新兵衛が何回も(そうだ、袂に石を入れなくちゃ)みたいに飛び込む前にあれこれするので、ほんとはこの人死ぬ気ないんじゃないかって思ってましたww まるでドリフのコントのような可笑しさw
そして実際に自殺を止めるのもバタバタw
2人が川に落ちてもバタバタw
猿弥さんの新兵衛の袂からはたくさん魚が出てくるし、幸四郎さんが猿弥さんにエビを渡したら「エビは来年 團十郎だ」なんて言ってるしなんか自殺を止めるシーンだというのにほぼコントww
ともあれ自殺を止めてくれて、新兵衛は安さんに感謝して屋敷へ連れて行くことにしました
屋敷では芸者たちと太鼓持ちが2人をもてなします。太鼓持ちの持っていた釜がどうも帽子に見えるなと思っていました。
太鼓持ちが持っていた笛を安さんが飲み込んでしまって、なんか安さんがピヨピヨ言うようになりましたww
そのピヨピヨ言う音に呼ばれて歌舞伎の着ぐるみの犬が2匹やってきました
ピヨピヨと犬のたわむれダンス…犬のブレイクダンスがとってもウケてました
新兵衛は朝になったら安さんのことを一つも覚えておらず(一つも覚えてないって、酒乱の人にはよくありますか??少しくらいは覚えていてもいいのになぁ〜)安さんは釜(帽子そっくり)とステッキを渡されて追い出されます
花道で、やっぱりその釜=帽子を被って
「こうして見れば、あちゅらの国の喜劇王様だ!」とチャップリンそのものの出で立ちでした!(着物ですけど)
帰りの道で女の子たちが吉弥さんのことを話していて、「あのお母さんもほんとに男の人なのかなぁ、あんな人いるよね?」なんて聞こえてきました 吉弥さんの素敵さリアルさは、やはり印象に残るのですね
長屋の大家さん、大谷友右衛門さんでした
声からそう思いましたが合ってるかな?
お花の目は、5両あればお医者様に診てもらえて治るだろうって話でしたが、それを安さんが外から立ち聞きしています(お花は自分の家を、いつか尋ねてくれるようにと安さんに伝えていたそうです)
そして安さんはお花の目を治したいのでお金を手に入れようと奮闘
まずはよく効くお灸を自分で試したり(お花はお灸ばかりは勘弁してください、と断ってました。可愛い)、賭け相撲に出たりw
この相撲が、ボクシングのようでもあり、歌舞伎の踊りのようでもあり、とってもコミカルで面白いシーンになってました しかし普通体型の安さんがごっついお相撲さんと対戦して勝てるのかと…w
安さんはちょこまかとなんとか残ってましたが、自分のミスで敗退〜
そんなとこに、お酒が入って安さんのことを思い出した新兵衛が会いに来て、また2人は一緒に呑むことになってお酒が入っている時は新兵衛と安さんは本当に親友みたいなんですよ
それで安さんが、眼病の娘さんを助けたいから5両なんとかしてくれないか!と頼んだら新兵衛は「兄弟の頼みだ、お安い御用だ」と快くオッケーしてくれましたが、その後「朝まで呑もう!」という話だったので、私は客席で『悪い予感しかしない…安さん、朝が来るまでにおいとましてよ!』と思いながら観てました(笑)
そしたらお屋敷に泥棒が入ったんです!
安さんが「ドロボー」と叫んで、新兵衛も起きたのですが灯りは泥棒に消されてみんなでだんまり。(ここで安さんも一緒に逃げていればよかったのに… )
泥棒は逃げ、みんな来て 捕方も来て… そこで新兵衛が安さんのことを何にも覚えていなくて「怪しい奴だ」と
それで安さんが泥棒だと勘違いされて、逃げることになります。
逃げながらもお花さんにお金を渡したいと願う安さん。(これは貰ったお金だからいいのか…)そこへ通りかかるお花さん。
お花さんの手に5両の入った紙入れ(財布)を握らせて、自分はお縄にかかってしまいます
お花さんはびっくりしましたが、感謝しつつ花道から引っ込み。
(原作が気になって色々調べていたら、無実の罪で捕まった「街の灯」のチャップリンは、警察にもその身分の低さから何を言っても信じてもらえなくて刑務所に入れられたようです)
お花さんが構えている花屋さん。
すっかり目も見えるようになって綺麗な娘さんの出で立ちです
そこへ…安さんが来たんです!(刑務所から出たらしい)
しかし、その汚い身なりを見てお花さんはいやそうな顔をしてました。
お花さんは「お茶代はいらないからお茶どうぞ」って言ったり「足代をあげましょう」と言ったりして施しをしようとしてくれます。今はお花さんの方が立場が上なんだなって思ってしまいました「お前さん、目が見えるようになったんだね」と安さん。それで安さんを長屋の人だと思ったお花さんは何か餞別をあげましょうと言うのですが、お花をくださいという安さん。
あれ?なんか私 涙ぐんでるけどなんでだろ…
と思いながらこれらの場面を見ていました。
自分があの旦那だよ!と名乗りたい気持ちを「いや違う!恩はかけるものじゃない、恩はきるものだ」と抑えた安さん。
これ、どういう意味だろうと思って帰り道に考えてました。そうしたらわかりました。
「恩は(恩きせがましく やってあげた方が)かけるものじゃない、恩は(いいことをしてもらった方が)きるものだ」ということなんだと分かりました偉いぞ、安さん
お花を渡した時に、安さんの手に菊の花を握らせたお花さん…
この手の感触は、といつも優しくお花を全部買ってくれた旦那様を思い出したようでした。
新悟さん、こういう演技うまいですよね!
じっと安さんを見て
「もしや、お前は…」
(もしやあなたは、だったか、もしやお前さんはだったかあやふやですが)
しかし安さんは微笑んだだけでパッとお花さんから離れて、お花は「おっかさん、あの人…」と完全に気づいたようでした。
しかし何も言わずに安さんは花道から去っていきました。
幕が閉まって立とうとしたら、溜まっていた涙が私の目から一粒落ちました
そんなラストでした。
映画の方はハッピーエンドみたいなんですが…
この歌舞伎版はどうなんでしょう?
幸四郎さんはインタビューで「ハッピーエンドかどうかは責任持ちませんよ(笑)」って言われていたみたいですよね。
このまま2人は会えない(安さんが会いに来ないから)みたいにも取れますし、お花さんが安さんを探してくれればまた2人が会える気もしますし…
私、なんで泣いてるんだろ?って感じでしたが、なんだか染みましてね…泣けたラストでした
尾を引くラストでした
いい作品でした。国立劇場にはあんまり行かない方も、ぜひぜひ行ってみてください
この作品、幸四郎さんが初めて歌舞伎化したものではなくて、その昔 13代目 守田勘弥という二枚目の役者さんが『蝙蝠の安さん』を勤めたそうです。(今の坂東玉三郎さんの養父の14代目 守田勘弥さんのお父様です)戦前のお話で、昭和6年が初演の作品だそうです幸四郎さんは88年ぶりにそれを復活させたのですね
チャップリン家が公式に、世界で初めて舞台化の許可を出した作品なんですって
やはり高麗屋は『世界に挑む』お家ですね
それでは良い夜を〜