春だ。

 

山が少しずつ緑色に色づいて

七面鳥の求愛のダンスが始まった。

 

 

...弱っていたからかな。

 

去年の春は

新緑が特にまぶしくて

自然が力強く、そして優しく、感じられた。

 

あれから、もう1年経ったんだなぁ。

 

「エルク探し」も、始めてもう1年半だ。

 

 

「empty nest」という言葉がある。

空っぽの巣。

子どもが出て行ってしまったあとの家庭を

意味する言葉だ。

 

末っ子が家を出たら、二人で何をしようか?

昔はよくトレッキングに行ったよね。

 

サンタ・クルーズの大学の周りや

ヨセミテの滝。

 

また始めようか。

 

All Trails というトレイル・マップのアプリを見つけて

「周辺のトレイルを制覇しよう!」

 

 

...そんな話をしていたのに

巣が空っぽになると同時に

がんになってしまった。

 

手術してすっかり弱ってしまった私に

山歩きは難しい...。

 

 

そんなとき、ダンナくんくんが 言った。

 

「エルクを探しにドライブ行こう!」

 

 

エルク(elk) というのは、鹿より大きい鹿科の動物。

首から頭までが濃い茶色で

おしりのところが白い。

 

国立公園などでよく見られるエルクが

冬になると 近くの丘に姿を現す。

 

自然や 野生動物が 大好きな私が

山歩きの代わりに楽しめるように...。

 

たぶん、そんなダンナくんの思いから

ウィークエンドの「エルク探し」が始まった。

 

 

週末、朝起きたら、シャワーも浴びずに

さっと着替えて 車に乗り込む。

 

住宅地を出て、いつもと反対方向の左に曲がると...

 

牛たちが みじかいしっぽを振って、ハエを追いながら

のっそり、のっそりと歩いている。

 

その間を 

野生の七面鳥の家族が  

地面をつつきながら 歩いている。

踏まれないのかな、と、ちょっと心配になったりする。

 

ゆるいカーブを描きながら続く

細い坂道。

 

ゆっくり登っていくと、3分も行かないうちに 

両側から山が迫ってくる。

 

ときどき、ロードバイクに乗って

山道でトレーニングをしている人を

追い越すぐらいで

 

他の車や人間には めったに出会わない道。

 

 

そんな道だけど、

エルクには、なかなかお目にかかれない。

 

初めて「エルクを探しに行こう!」って

ドライブに出かけた日に

本当にエルクに会えたから、

簡単に会えるような気がしていた。

 

それでもいい。

 

野原の真ん中で遠吠えしているコヨーテや

木々の間を抜けていく鹿の家族。

 

野生の七面鳥(ターキー)のお母さんに率いられて

赤ちゃんターキーがパタパタと道を横切り、

 

ウズラの親子も 短い足を必死で動かして

サーッと道を開ける。

 

 

日本に比べて 季節感があまりないカリフォルニアだって

毎週同じ道を通っていると

季節が少しずつ移り変わっていくのが よくわかる。


 新緑がきれいだね。

 

 霧が濃いね。

 こんな日は エルクに会えそうな気がするね。

 

 ずいぶん緑が濃くなってきたね。もうすぐ夏だ。

 

 空が青いね。

 今日は暑くなりそうだ。

 

そんなたわいのない会話から始まって、

 

 子供の話。

 

 ニュースで聞いた話。

 

 そして、これからの将来の話。

 

いろんな会話を 二人でゆっくりとする時間。

 

 

巣がからっぽになって できた

新しい ささやかな日常。

 

たった30分ぐらいだけれど

大切な、大切な、二人の日常。

 

 

今日は、何に会えるかな。