只々其の芸を惜しむ | かびらのブログ ~息子たちに贈る言葉~

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梨園を揺るがす大事件が起こった。
澤瀉屋の大黒柱こと、四代目、市川猿之助(市川亀治郎)が自殺未遂。
彼のご両親、市川段四郎と奥様はすでに亡くなられていた。

悲痛な想いにかられ、思わず天を見上げる。

只々其の芸を惜しむ。

日本の伝統芸能の将来はどうなってしまうのか。
国宝にも値する歌舞伎の素晴らしさは失われてしまうのか。
涙が出てくる。

猿之助を初めて見たのは
大河ドラマの「風林火山」であった。

武田信玄役として登場した彼を最初に見たとき
正直ミスマッチだと思った。
津川雅彦や阿部寛のような体格に恵まれている訳でもない。
女性のような面影すら感じられ、どうなるかと思ったものである。

しかし若さや未熟さを補ったものは
歌舞伎に通じる演技力にあったと思われる。

喜怒哀楽を伝える顔芸や、
若武者から老練な政治家に至るまでの演じ分けなど
実に見事な演技であった。
これがきっかけで、私は猿之助に興味を持った。

当時、歌舞伎で最も有名だった人は、成田屋の海老蔵(市川團十郎)であった。
尋常でない目力があり、若さゆえに浮名を流し、界隈では大暴れをしたりと
素人の私から見ても、とにかく目立っていた。
そんな派手な彼と対照的だったのが猿之助であり
当時は亀治郎という呼び名で、コツコツ頑張り続けていたのである。

時は流れ、歌舞伎界の重鎮たちがこの世を去り
亀治郎は猿之助と名前を変え
歌舞伎の新しい可能性に邁進していた。
バラエティーやドラマにも数多く出演し
これからどんな歌舞伎を見せてくれるのか
非常に楽しみだった矢先である。

週刊誌に猿之助のハラスメント疑惑が取り上げられた。
そして記事が出るや否や、彼が自殺未遂したというニュースである。

記事の内容の真偽のほどは分かりかねるが
子どものころから歌舞伎の看板を背負って生まれ
芸事に精進し、完璧を目指してもまだ飽き足らず
常に歌舞伎の将来を考えている人たちの人生というものは
私たちの価値観とは全く異なることは認識している。

繊細な性格で独身を貫き、歌舞伎に人生を捧げる猿之助にとって
この醜悪な記事は、相当に堪えたことだろう。
死をもって記事の内容に応えたのか、それともこの世に絶望したのか
私にとっても理解できない衝撃の結末となった。

昨今の世の中は、些細なことで人の揚げ足を取り
場当たり的に叩きのめしては、日頃の鬱憤を晴らすという
荒廃した光景が広がっている。
社会に多大な貢献をされた功績者まで
類が及ぶことに怒りを禁じえない。

私は市川猿之助を応援する。

万死に一生を得た彼が回復し
この出来事さえも、芸事に昇華し
また彼の素晴らしい演技が見たい。

その想いでいっぱいです。