【B】
今日は彼と出会って別れた特別な日。
彼との出会いは雨がきっかけだった。天気予報では一日晴れだと言っていたのに、授業が終わり帰ろうとした時にはどしゃ降りの雨が降っていた。
学校から駅までは歩いて20分もあるしこのままだと帰れない。
そう思ってしばらくまってみたものの、なかなか止む気配もないからそのまま帰ろうと決意し駅に向かい始めた時、突然私に自分の傘を差し出してきた人がいた。それが彼だった。
雨と同じ色の青色の傘。
傘を差し出すと彼は何も言わずに走って去って行った。その後、彼に傘を返そうと晴れの日も毎日青色の傘を持って学校に行ったけど彼はしばらくいなかった。
一週間後、やっと見つけて傘を返すと彼はびっくりした顔で
「もしかして毎日それ持ってきたの?」
と言ってにっこり笑った。
それからしばらくして私は彼と付き合うことになった。
彼は雨が好きな変わった人だった。直接口には出したことはなかったが雨の日には
「あーあ」
とか言いながら窓を見ては嬉しそうな顔をしていた。
彼と出会って一年が経とうとしていたある日、私の携帯電話が突然鳴った。
彼のお母さんからだった。もう何度か彼の実家にはお邪魔していて彼のお母さんの番号は知っていた。
「もしもし、お母さん?」
「あっ!リサコちゃん!?大変なの!今警察から電話があってサトシが、サトシが、」
「お、お母さん!落ち着いて!サトシさんがどうしたんですか?」
「事故にあって今意識不明だって!」
私はそれを聞いてかーっと胸が熱くなった。
私は電話を切り、とにかく夢中で走った。今日、彼はアルバイトに行ったはずだった。
急いで病院に行くと彼はあおじろい顔でベッドに横たわっていて彼のお母さんが私の顔を見て泣き崩れた。
彼と出会ってちょうど一年たった季節はずれの雨の日に彼は帰らぬ人になった。
今日はそんな日だった。
今日は朝から大学で授業があった。
彼が事故で死んだあの日以来、私は一年近く大学には行ってなかった。大学には彼との思い出が多すぎるから。でもどうしても取らなければいけない単位があったので一年ぶりに授業に出た。一年前は彼と一緒に受けていた授業。彼と座っていたいつもの席に座り、一人で授業を聞いていると突然涙が出てきた。あの日からずっと、泣かないように振舞ってきたけど今日は無理だった。
次から次に涙があふれ、もうどうしようもなくて授業を抜け出すとさっきまで晴れていたのに外はどしゃぶりの雨だった。
外に出ると雨がすぐに全身を覆い、雨が涙を隠してくれているような彼がそうしてくれているような気がして、その優しさの中で泣いた。
しばらく泣いた後、その優しさの中で「もう泣くのは最初で最後にしよう。」
そう決めて私は歩きだした。
【A】
あれは雨の降る日だった。
今、こうして思い返すと初めからすべて夢の話ではないかと思うような、そんな日々だった。
朝、携帯の音で目が覚めた。昨日からセットしておいた目覚ましのアラームだ。僕は割と朝には強く、目覚まし時計なんて今まで買った事がなかった。
いつものようにトーストをオーブンに入れてカーテンを開けるともう梅雨は明けたというのにすごい雨が降っていた。
「こりゃ一日雨だな。」
そう一人で呟くと僕は出掛ける用意をした。今日は午後から大学で授業がある。
僕は雨の日が好きだった。もちろん最初は雨なんて嫌いだった。好きになるにはどうすればいいかずっと考え、雨の日に着る服を決めてみることにした。そうすれば濡れても問題はない。そう決めて以来、僕は雨の日が好きだった。
「今日は着ていく服を考えなくていいからゆっくりできるな。」
そう言いながら、ゆっくりコーヒーカップを口に運んだ。
いつものように青い傘を手に取り、外に出ると思ったより雨は降っていなかったが、地面にはたくさんの水たまりがあり、少し歩くと足元はすぐにびちゃびちゃになった。しかし雨の日用の靴がしっかり水をはじいていてうれしくなりわざと水たまりを歩いてみたりした。
駅から僕の通う大学までは歩いて20分近くある。大学が山の中にあることもあって周りには何もなかった。
学校までもう少しというところまで来た時に前から女の子が歩いてくるのが見えた。
学校では見かけた事はなかったがすごくきれいでそれでいて不思議な雰囲気を持っていた。
彼女に見入ってしまっていてすごく近くになるまで気がつかなかったが結構な雨が降っているのに彼女は傘をさしていなかった。レインコートを着ている様子もない。
それでいて特に急ぐようすもなければ雨を避けようともせずただぼーっと前を見たまま歩いていた。雨に濡れながら歩いている彼女の姿が彼女のかもしだす不思議な雰囲気に妙に合っていた。
そのあまりにさびしいまなざしに息を飲んでしまった僕は自然と足を止めていた。
そして彼女が自分の横を通り過ぎようとした時に思わず声をかけてしまった。
「あの!!」
彼女はゆっくりと振り返り、何も言わずこちらを見た。
真近で見た彼女の瞳は思ったより寂しく吸い込まれそうな不思議な瞳だった。
妙な間の沈黙が二人の間に流れ、なにか話さなくてはと思った僕はとっさに
「これ!!もう使わないから!!」
といって自分の傘を差し出していた。
あとから考えれば意味不明だがそういった僕を見て、彼女は少し驚いた顔をしたがそのあとにしずかに微笑んだ。
その目からは少し涙が光っているように見えた。