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あれは雨の降る日だった。

今、こうして思い返すと初めからすべて夢の話ではないかと思うような、そんな日々だった。


朝、携帯の音で目が覚めた。昨日からセットしておいた目覚ましのアラームだ。僕は割と朝には強く、目覚まし時計なんて今まで買った事がなかった。

いつものようにトーストをオーブンに入れてカーテンを開けるともう梅雨は明けたというのにすごい雨が降っていた。


「こりゃ一日雨だな。」


そう一人で呟くと僕は出掛ける用意をした。今日は午後から大学で授業がある。


僕は雨の日が好きだった。もちろん最初は雨なんて嫌いだった。好きになるにはどうすればいいかずっと考え、雨の日に着る服を決めてみることにした。そうすれば濡れても問題はない。そう決めて以来、僕は雨の日が好きだった。


「今日は着ていく服を考えなくていいからゆっくりできるな。」


そう言いながら、ゆっくりコーヒーカップを口に運んだ。

いつものように青い傘を手に取り、外に出ると思ったより雨は降っていなかったが、地面にはたくさんの水たまりがあり、少し歩くと足元はすぐにびちゃびちゃになった。しかし雨の日用の靴がしっかり水をはじいていてうれしくなりわざと水たまりを歩いてみたりした。


駅から僕の通う大学までは歩いて20分近くある。大学が山の中にあることもあって周りには何もなかった。

学校までもう少しというところまで来た時に前から女の子が歩いてくるのが見えた。

学校では見かけた事はなかったがすごくきれいでそれでいて不思議な雰囲気を持っていた。

彼女に見入ってしまっていてすごく近くになるまで気がつかなかったが結構な雨が降っているのに彼女は傘をさしていなかった。レインコートを着ている様子もない。

それでいて特に急ぐようすもなければ雨を避けようともせずただぼーっと前を見たまま歩いていた。雨に濡れながら歩いている彼女の姿が彼女のかもしだす不思議な雰囲気に妙に合っていた。

そのあまりにさびしいまなざしに息を飲んでしまった僕は自然と足を止めていた。

そして彼女が自分の横を通り過ぎようとした時に思わず声をかけてしまった。


「あの!!」


彼女はゆっくりと振り返り、何も言わずこちらを見た。

真近で見た彼女の瞳は思ったより寂しく吸い込まれそうな不思議な瞳だった。

妙な間の沈黙が二人の間に流れ、なにか話さなくてはと思った僕はとっさに


「これ!!もう使わないから!!」


といって自分の傘を差し出していた。

あとから考えれば意味不明だがそういった僕を見て、彼女は少し驚いた顔をしたがそのあとにしずかに微笑んだ。

その目からは少し涙が光っているように見えた。