やり直したい過去。
あの時あーしてれば…なんて事が人には必ずしも一つはあるはずだ。僕も世間の人と同じようにやり直したい過去は持っていた。

ただ時を越えて過去をやり直すなんてことは人類の科学がこれだけ進化した世の中でも決して叶う気配はないし僕が生きてる間は到底無理な事なんだと思っていた。でも僕はあの時、確かに時を越えた。間違いなく時を越えたんだ。





ピピピピ、ピピピピ、ピピピピピピピピピピ!


「うーん。」


僕は手を伸ばして目覚まし時計を止めた。

気持ち悪い。

昨日は朝まで飲み会で結構無茶に飲まされたからまだ酔いが覚めてないのか今にも吐きそうだ。
水道をひねり、コップに水を汲んでそれを飲みながら椅子に腰掛けテレビを付けた。


「緊急ニュースです。競馬での八百長疑惑が噂されていた半田自動車社長の半田宗一郎氏についに逮捕状がでました。同氏は自己所有の競争馬を…」


僕はニュースをぼっーと見ながら水をゆっくり飲んだ。時計を見ると13時になるかならないかというくらいだった。


「やばい!急がないと!」


僕はあわてて水を飲み干すと服を着替えた。今日は14時からバイトがある。
急いで歯を磨き、カバンを持って家を出た。そして少し小走りでいつもと同じ道を通って駅まで向かっていた時だった。

道路を挟んで向かいの公園で遊んでいた子供がボールを追いかけて道路に飛び出した。そこまではいつものよくある光景なのだがそれがいつもと違ったのはそこに運悪くトラックが走り込んできていたのだ。トラックはクラクションをならし警告しているが子供は足がすくんでいるのかぼーっと立ち止まったままだ。

このままじゃ轢かれる!

クラクションの音が鳴り響く中、僕はとっさに持っていたカバンを放り投げ、走り出した。ギリギリのタイミングで子供を歩道に突飛ばした次の瞬間、キキッーというブレーキの音と共に僕はトラックにはねられ、ポーンと飛ばされた。すると世界がスローモーションで動き始め、まばゆい光が辺りを包んだ。

気がつくと僕はベッドの上にいた。母が心配そうにこちらを見ている。


「あー目を覚ましたかい。良かったー。あんた大丈夫かい!?ほんとにもう心配かけてからに!」


母の顔が安堵に変わる。


「ここは?」


「病院よ。あんた事故にあったんよ!覚えとらんの?。」


あー生きてたんだ。トラックにはねられた後の記憶はなかったがどうやら無事に生きているようだ。


「で、子供は無事だった?」


「え?子供?あんな何いっとんの!子供はあんたやろうが!」


そういうと母は僕の頭をパシッと叩いた。
僕は一瞬母が言ってる事がわからなかったがゆっくりと自分の体を見てある異変に気づいた。



なんか全体的に小さい。


元々特に背は大きい方ではなかったがそれにしてもまるで子供のような手足だ。
僕は一瞬事態が飲み込めなかったがすぐにある可能性が頭をよぎり、起き上がって病室にあった鏡を見た。
そこには小学生の頃の僕が立っていた。

やっぱり…もしかして…


「母さん!今日っていつ?」


「ん?どういう事?今日は今日やないの。」


「違う違う!!あのーー、あっ!今日って西暦何年!?」


「あんたはおかしな事ばかりいいよるね。もう一回お医者さんに見てもらおうか。今日は1995年の7月25日よ。4年生にもなってそれくらいちゃんと覚えとかんと恥ずかしいよ。」


1995年…やっぱり…。
あらゆる状況証拠が僕をひとつの結論に導いた。

僕は15年前にタイムスリップしている。

思えば遠く九州に住んでいる母が東京の病院にいるのもおかしいし何より母が若すぎる。


「そういえばヒロくんがお見舞い来てくれてたよ。あんたの事心配してたわよ。律儀に果物まで持ってきてくれて。食べる?」


そういうと母はベッドの横にあったリンゴをむきはじめた。


「ヒロ!?ヒロってあの栗木広人!?」


「ヒロくんいうたらそうに決まっとろうが。あんたほんとおかしなこといいよるね。あんたら毎日毎日遊んどるやないの。」


「母さん!ちょっと俺行ってくる!」


「ちょっとあんた!まだ動いたら…」


母の言うことを無視して僕はベッドを飛び出し、病院を出た。


ヒロが生きてる!

僕の胸は高鳴った。ヒロは幼稚園からずっと一緒で一番の仲良しだった。夏休みも毎日一緒に遊びに行って二人で裏の山に基地とか作った。二人でいることが楽しくてしかたなかった。

けど悲劇は残酷にも突然訪れた。

夏休みにクラスの友達と数人で川に遊びに行った時にヒロは行方不明になり後日、川の下流で遺体となって見つかった。
僕は自分のふがいなさを恨んだ。僕も最初は川遊びに行く予定だったのだが当日、40度の熱を出してしまい行けなくなってしまったのだ。僕が付いていれば救えたかも知れないのに。自分のふがいなさと大切な人を失った悲しみで僕はしばらく学校を休んだ。
そして後にも先にもあれほどの悲しみはなかった。

僕は病院を出て全力でヒロの家に向かって走った。
いつも通った裏道を走り、僕はヒロの家の前に着いた。呼吸を整えながらインターホンに手をかけるとズキズキと心が痛む。ヒロが死んでからはヒロの家には一度も来ていなかった。
僕は勇気を振り絞ってインターホンを押した。
ピンポーンという音が家に鳴り響く。
応答はない。
もう一度押そうかとした瞬間、ドアが開き中から眠たそうに目を擦りながらヒロが出てきた。


「ヒロ!!!」


僕はそういうとヒロに抱きつき、力いっぱい抱き締めた。


「ちょ、ちょ、どうしたんいきなり!おい!暑いて!ってかお前怪我は大丈夫やったんか!?」


「あー全然大丈夫!!お前はなんともないか?」


「俺!?お、おーいつも通り元気やけど!てかユウタほんまにお前大丈夫なんか?なんかちょっとおかしいぞ!」


懐かしいこの大阪弁。ヒロは両親が大阪だから九州にいるのにずっと大阪弁だった。


「あー全然大丈夫だよ!!」


「そうか!よかったよかった!あっじゃあ秘密基地行こうぜ!」


「うん!」


夏休みという事もあり、それからというもの僕は毎日ヒロといろんな所に遊びに行った。
僕がこっちの世界に来てから10日くらい経ったある日、ヒロが口を開いた。


「なぁユウタ。お前事故があってからなんか急に大人っぽくなったよな。」


「そ、そうかな。全然そんな事はないと思うけど。」


「ふーん。まぁええんやけど!てかユウタ今度のクラスのみんなで行く川遊び行く?」


僕の胸は一気に熱くなった。
そうか。あれは確か小学校4年生の夏休みだった。正に今じゃないか。なんとしてでもヒロを川に行かせるわけには行かない。


「あ、あーあれ。俺は行かないつもりだけど。ヒロもさ、やめとこうよ。二人で遊びに行こうぜ。」


「そうなんや。そうかー俺めっちゃ行きたかったのになー。まぁでもユウタがそういうならやめとこかな。二人で遊びに行こか。」


僕はほっとした。

これでヒロは死ななくて済むはず。とにかくあの悲しみは繰り返したくはなかった。


「じゃあまた連絡する!」


そう言って僕らは別れた。

運命の日、ずっと気をつけていたにもかかわらず僕はあの日と同じように熱を出してしまった。ヒロに電話して熱があるから今日は遊べない旨を説明すると


「あーそうなんや。残念やな。大丈夫なんか?」


「なんとか大丈夫。ごめんな。でも今日はくれぐれも外には出るなよ!絶対だぞ!絶対家から出るなよ!」


「お、おう。どないしたんや急に。いかへんいかへん!家でゲームでもしてるわ。」


「そうか。よかった。じゃあまた連絡するよ。ごめんよ。」


「ええよええよ。はよ治しや。」


そう言って僕は電話を切った。よかった。これでヒロは死なないはずだ。
安心した僕は気が付いたら眠っていた。
起きたら熱もすっかり下がっていたのでヒロの家に電話した。


「はいもしもし栗木でございます。」


「あっ、おばさんこんにちは。ヒロトくんいますか?」


「あーユウタくん?あれ?ヒロトはクラスの子達と川に行くって行ってたけどユウタくんも一緒じゃなかったの!」


「え?」


僕は胸が熱くなった。
家にいるはずなのにどうして…


「なんか二時間くらい前にやっぱり川に行ってくるいうて出てったけど。」


「わかりました。ありがとうございます。」


僕は電話を切ると急いで川に向かった。
自転車を全速力で30分程行った所にその川はあった。
川に着くとクラスのみんなが遊んでいるのが見えた。僕はすぐにヒロの姿を探したがヒロの姿はなかった。


「みんな!」


「あれ?ユウタ!!熱があるんじゃなかったの?」


「ヒロは?ヒロトはどこ?」


「ヒロト?あれ?さっきまで一緒にいたのになー、ヒロトー?」


みんなが大声で呼んだが全く返事がない。
もう僕の胸は張り裂けそうだった。
くそ!なんで熱を出してでも一緒に行かなかったんだ!なんで家で一緒に遊ばなかった!様々な後悔が押し寄せてきてどうしようもない気持ちになったが今はそんな事を言ってる場合じゃない。とにかくヒロを探し出して助けるしかない。

僕は夢中で山の中を歩き回りヒロを探した。


「ヒロ!ヒロー!」


とにかくがむしゃらに山の中を20分ほど歩き回っていると遠くで何か物音がするのに気付いた。
物音がする方に近寄るとそこには川で溺れかけているヒロの姿があった。


「ヒロ!ちょっと待ってろ!今助けるから!!」


僕は夢中で川に飛び込み、ヒロの所まで行った。暴れるヒロを抱き抱え、岸まで泳ごうとするが流れも速く、服が絡み付いてうまく泳げない。それでもなんとか岸の近くまで来た。が次の瞬間、足をつってしまった僕はヒロを支える事ができなくなり、体制が崩れた。そして再び暴れだしたヒロの肘が顔にぶつかった拍子に大量の水を飲んでしまった。それで完全にテンパってしまった僕は必死にもがいて息を吸おうとしたが何がどうなっているのかもうわからなくなっていてちゃんと吸えない。


このままじゃ溺れる。


そう思った僕は必死にもがくがもがけばもがくほど苦しくなっていった。もうだめだ。そう思った瞬間、急に視界がスローになり、辺りはまばゆい光に包まれた。




「先生!!先生!患者さんが目を開けました!」


僕が目を覚ますとそこは病院のようだった。
どうやら助かったらしい。ヒロは、ヒロはどうなったんだ。助かったのか。
それだけが気掛かりで近くにいた医者に話しかけようとしたが口についている呼吸器が邪魔でうまく話せない。
起き上がろうとしたが手足は思うように動かず、動かそうとしても手足は全く反応しなかった。


「依然として危ない状況だな。」


医者は僕の目をライトで照らしながら言った。


「ご家族の方には連絡したんですが東京に来るのは明日になりそうだという事でした。」


「今夜がヤマだろうな。」


僕は朦朧とする意識の中で医者のやり取りを聞いていた。
するとその時、バタンと病室が開き一人の青年が入ってきた。知らない顔だったがどこか見た事のあるような懐かしい感じのする顔だった。
その青年は息を切らしながらこちらに向かってきた。


「先生!ユウタはどないなってんねん!?ユウタは!?」


「誰ですかあなたは!?ご家族の方ですか!?」


「血は繋がってへんけど家族みたいなもんや!てかおっさん!ユウタ大丈夫なんか!」


「非常に危険な状態ですね。やはりトラックにはねられているので内臓の損傷がひどいんです。」


「そんな…おい!しっかりしろや!おい!」


「やめて下さい!患者さんに近づかないで下さい!」


看護婦さんがそう止めているのもお構い無しにその青年は僕に話しかけている。誰なんだ。
そう思っていると青年は


「おいユウタ!お前が俺より先に死ぬなや!しっかりせぇこら!!お前に助けてもらった恩をまだ返してへんやんけ!おい!」


どこか懐かしい大阪弁。さらにその出で立ちをみて僕は確信した。

ヒロだ。

ヒロは生きていたんだ。僕はあの時、ヒロを助けられたんだ。
よかった。
ほんとによかった。
運命を変えた。運命は変えられたんだ。僕は本来見ることができなかったヒロの成長した姿に嬉しくなり、涙がとめどなく流れた。


「先生!脈が下がってます!!」


「やばいな。呼吸も乱れてる。」


「おい!医者ならなんとかせぇや!!ユウタ助けてくれや!おい!」


「私共も手は尽くしましたんですが…」


薄れいく意識の中で僕はヒロになんとか気持ちを伝えようと手を動かした。


「おい!ユウタ!大丈夫か!」


僕は最後の力を振り絞ってヒロに話しかけた。


「ヒロ…よかった…生きてて…ごめんな…俺もう無理かも…」


「おい!何いうてんねん!そんなん許されへんぞ!おい!」


「今まで…ありがとう…」


「先生!脈が!」



ピーーーーーーー。



「ユウタ!おい!ユウタ!……なんでやねん…なんでやねん…。」


ヒロはそう言うとその場に泣き崩れた。


















ピピピピ、ピピピピ、ピピピピピピピピピピ!


「うーん。」


僕は手を伸ばして目覚まし時計を止めた。

気持ち悪い。

昨日は朝まで飲み会で結構無茶に飲まされたからまだ酔いが覚めてないのか今にも吐きそうだ。
水道をひねり、コップに水を汲んでそれを飲みながら椅子に腰掛けテレビを付けた。


「緊急ニュースです。競馬での八百長疑惑が噂されていた半田自動車社長の半田宗一郎氏についに逮捕状がでました。同氏は自己所有の競争馬を…」


僕はニュースをぼっーと見ながら水をゆっくり飲んだ。時計を見ると13時になるかならないかというくらいだった。


「やばい!急がないと!」


僕はあわてて水を飲み干すと服を着替えた。今日は14時からバイトがある。

その時、ピンポーンとチャイムが鳴った。
誰だ一体こんな時に。
僕は多少いらつきながら出た。


「はい?どちら様で…」


「うい!」


「ヒロ!お前何してんだよ!」


「ん?あ、あー。ちょっと近くまで来たから!」


「それにしても来るならなんか言えよ!てか悪いけど俺今からバイトなんだよ!もう時間がないし。」


「まぁまぁそう言わんとちょっとゆっくりせーや!な!ええやん!昔みたいに遊びに行こうぜ!山とかさ!な!」


「何言ってんだよ!無理だって!俺もう出るよ!ちょっとそこどいてくれ!」


「ちょーいちょーい!ええやんか!ちょっとだけ俺と話そうや!なあ!親友の言うこと聞いてーや。」


「なんだよ。どうしたんだよ今日。」


「まあまあええやんええやん!」



これで完全にバイトに遅れることが確定した僕はもうどうでもよくなりバイトを休んだ。


「まったく、お前は。」


「まぁまぁ!今日は久々に語り合おや!」


その時、遠くでクラクションの音が聞こえた。