徳村慎
何歳の少年なのかは分からない。
ひょっとしたら、僕の頭の中の住人なのかもしれない。つまり幻聴の可能性があるのだ。
自作の音楽を鳴らしながら本を読んでいると、声が聴こえるのだ。大人の男性と少年だと思う。
少年が言う。
「やっぱりiPhoneかiPad無いと出来んのちゃう?」
「お前そんなこと言うんやったら、もうやめとけ」
少年は音楽をやりたいのか、もしくは、もう音楽をやっているのだろうか?
今の楽器に満足していないのかも知れない。
しばらくして大人の男性が言う。
「お前がiPhoneやiPad欲しいって言うのも分かるわ。アイツ、ほとんどの曲をiPhone使って作っとるから」
ふと疑問に思った。何歳の少年なんだ?
何年も前から声が聴こえている気がする。
幻聴だとすると、いつまでも少年のままなのが理解できる。
けれども幻聴じゃないなら、少年は一体何歳なのだろう?
小学生ぐらいなのか。それとも中学生なのか。声は幼いように思えるが、何年も前から聴こえているってことは、高校生ぐらいになっていてもおかしくない気もする。いやいや、あれは小学生なのだろう。
しかし。10年前にも聴こえていた気がする。
5歳だった子供でも15歳になってしまう。やはり幻聴なのか。
不思議なのは、平日で学校のあるはずの時間帯にも声が聴こえることだ。
やはり幻聴だよなぁ。
いや、しかし。
幻聴じゃない可能性もあるよなぁ。
不登校ってやつか。いや、しかし、不登校の子供がわざわざ他人の音楽をどうのこうの言うだろうか?
それとも、不登校だからこそ、他人の(しかも素人の)音楽が気になるのだろうか?
昔の幻聴は、「下手、下手」とか言っているのがよく聴こえた。
最近は「上手いで」とか、「技術隠し持っとる」とかが聴こえた時もある。
それが幻聴ならば、自分に対する評価が変わってきたということなんだろう。
前は「下手」と言われるとムキになってがむしゃらに楽器を弾いたりしたものだ。今は、練習しているピアノが下手なので、自分が下手だと認識した上で、得意なことをやっている感じだ。
今日もまた、下手なピアノを弾くか。
少年は、僕自身なのか、そうでないのか、分からぬまま。
(了)