小説『殺し屋とウクレレ』
徳村慎
昆虫の生体ロボットやけど少女の姿に似せてある物があるんよ。これがユンナなんね。殺し屋として2年目を迎えるんやよ。僕はユンナが持ち歩くウクレレのウーク。まあ普段はウクレレなんやけど、武器に変わったりもするんよ。偉いやろ。
移動式テントの中。ユンナはソファに座ってウクレレを弾いとる。液体ゴムが浮かぶオレンジ色のランプの中でソファ以外なんにも無い部屋。あるのはユンナ自身が使う充電コードだけ。
全ての人類が冷凍保存されて大きな幾つもの船に乗せられて宇宙空間に浮いている時代。それが僕らの時代なんよ。つまりは地球と火星にはロボットしか生きてないってことやね。
ユンナが何を殺しとるんかってか?……宇宙人に決まっとるやん。
宇宙人は、さ。人類の眠っとる内に太陽系を支配しょうとおもとる(思ってる)んよね。太陽の電磁波は強まって太陽熱遮断計画をロボットたちが進めとる間に人類は眠ることにしたんよ。そやから、人類のおらん(居ない)内に支配しようとする宇宙人がドンドン来るわけ。
ユンナは宇宙人専門の殺し屋なん。今はウクレレのウーク、つまり僕を抱きかかえて歌をうととる(歌っている)けどね。
ピリリリ。ユンナの脳内で電話が鳴った。マルチタスクのロボットやから歌いながら脳内で電話の受け答えをするユンナ。
「ネオクマノ第28区に逃げ込んだタコニトロ星人ね。両腕にキリストと十字架の刺青(いれずみ)があるのね。分かったわ」
歌を歌い終わって、僕を空中にほりなげて(放り投げて)スリングショットに変形させた。ショータイムのはじまりだいッ。
人影の無いネオクマノに多足歩行のロボットに乗ってやって来た。昔で言えば4輪駆動のパリダカに出とった車といった所やね。太陽電池がボディの塗装に使われとるんよ。この時代の太陽電池ってのは塗装で吹き付けるんやよ。ユンナの乗るメタリックレッドの蜘蛛みたいなロボットが走り回るんやで。すごいやろ。
ピリリリ。ユンナの脳内に生体反応が見えた。この脳は遺伝子デザインと3Dプリンターで作られた物だ。
「待ちなさいッ」
遠ざかる人影に声をかけて多足歩行のロボットで急ぐ。
追いつくと、やはりタコニトロ星人やった。二足歩行だが腕が4本ある。その腕にキリストと十字架の刺青。それと触手は8本。スリングショットを構えた瞬間、バシュッと音がしてユンナの身体が吹っ飛んだ。
「ユンナ、だいじょぶ(大丈夫)か?」
どうも、触手が伸びてユンナを弾き飛ばしたみたいやな。
「これぐらいモーマンタイ(無問題)だよ。連射するよ!」
続けざまに石をセットしてタコニトロ星人を撃つ。
紫色の血液を飛ばしながら建物の中へと逃げるタコニトロ星人。このへんの建物は半壊しとるから、たやすく入(はい)れるんやね。
ユンナも走って追いかける。
「待てまてぇーいッ」
タコニトロ星人は卵や幼体を守っている。あいつ、女やったんか。
「観念しなさい。あなたは違法に地球上に居るのよ」
「ユンナ、けど、あれは女なんやで。子供もおる(居る)んや。見逃したってもええんちゃうんか?」
「ウーク、うるさい。仕事の邪魔よ」
タコニトロ星人は涙を流して話す。
「見逃して下さい。私は、この子たちを育てなきゃいけないの。この子たちはタコニトロ星の全てのデータを遺伝的に持っているのよ。この子たちが生き延びなきゃタコニトロ星人は滅んでしまうの」
「観念しなッ」
石が僕の身体(スリングショット)から飛んだ。急所に当たってタコニトロ星人は倒れた。
「ユンナ、せめてこの子たちは……」
「馬鹿ね。この子たちも殺すのよ」
ピギー、ピギー。石を当てられて鳴き声もやんだ。死んでしまったんよね。タコニトロ星人は絶滅した。ロボットが種を滅ぼす時代なんや。種の生存運命はロボットが握るんよ。このユンナは人類の仕事を全(まっと)うしたに過ぎんの。でも、ちょっと悲しそうに見えるんは、僕の思い込みかいね?
ピリリリ。またユンナの脳内に電話が入る。「次はアフリカセレンゲティ国立公園ですか。ゾウアラブ星人ね」
大型ジェットヘリがやって来た。多足歩行ロボットのままで乗り込むんよ。僕は暗い気持ちのままや。
空へと上がると廃墟の都市ネオクマノが自然に囲まれた小さな染みのようにも見える。緑と海に囲まれた都市は人類の残した染みに過ぎないんかいねぇ?
ユンナと僕も人類の残した染みに過ぎないんかも。仕事は続ける必要がある。そうじゃなきゃ死んでしまうから。ロボットだって死ぬのは嫌や。充電してメンテナンスしてなるべく長い時間を生きたいやん。
でもね。地球人が生み出したロボットが色んな星の人々を根絶やしにしてるんは、ええんかいね?
悪い病原菌みたいに根絶やしにしてええんかいね?
僕は妖精の形に勝手に変形した。脳内電話で宇宙のロボットに通信する。僕は地球の癌(ガン)細胞みたいな人類を消し去ろうと決意したんよ。
その電話を読み取ったんやろね。ユンナが僕を殴った。僕はバラバラの壊れたウクレレになった。
ユンナが眼から涙を流しとった。初めて見たユンナの涙やった。ユンナはバラバラの僕を拾い集めて胸に抱きしめた。
「分かってるよ、私も。人間が悪いのなんてさ」
ユンナと僕はアフリカに到着するまで静かに泣いたんよ。静かに。ただ静かにね。僕らはアフリカに到着したら、また、頭を切り替えて仕事をせなあかん。冷たい殺し屋として感情を殺さなあかん。地球を支配しようとする奴らを殺さなあかん。
でもホンマは地球を支配しようとしとるって地球人の思い込みちゃうんか?
ホンマは、どうなんやろ?
アフリカが見えてきた。人類の生まれた大陸が。地球は母やのに。母は、なんにも愚痴なんか言わへんよな。でも人類が僕らロボットを生んだ。複雑やね。良いもんから、悪いもんが生まれてくるんやったら、ロボットが一番悪いんちゃうん?
「僕らって悪いんやろか?」
「ううん。悪くないよ」
アフリカに着陸する。ユンナは僕無しでどうやって戦うつもりなんやろ?
それに誰に対して戦っとるんやろ、僕らは。ユンナは後部の扉を開けて多足歩行ロボットで外へ出た。
ロボットの足が大地を蹴って進む。僕はユンナの胸に抱かれて壊れた自分を修復していた。ゆっくりと。もっとゆっくり時間が進めばいいと思った。
(了)
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