感想
津原泰水『ブラバン』
音楽の小説や映画が好きだ。その中でもこれはすごく良く出来ていると思う。花村萬月『ブルース』に並ぶ傑作だろう。
高校の吹奏楽部、つまりブラバンの話だ。題名がそのまんまやんけ、という小説なのだ。しかし、そのまま、というのは作者は勇気がいっただろうな、という感覚にもなる。つまり余程の覚悟がないと『ブラバン』などというストレートな題名はつけられない。それでも、この小説には『ブラバン』以外の題名は似合わないからすごい。
『ドラムライン』という映画を観たことがある。楽譜の読めない天才ドラマー(マーチングバンドなのでスネアドラム)が活躍していくものだ。
あるいは『天使にラブソングを』という映画も観た。下手な教会の合唱を殺人を目撃してしまった女性が身をかくまってもらう代わりに指導するものだ。
これらの映画は成長していくから面白いのだ。しかし、この小説『ブラバン』の成長は単に音楽的な成長ではない。人間的な成長。いや、時間的な成長かもしれない。それに全く成長していない部分もある。人生のあきらめに近いかもしれない。
高校のときの思い出と再結成の現在。その2つを軸に小説は進む。僕も高校時代の頃を最近思い出す機会があった。ちょうど小説『ブラバン』の語り手も僕と同じぐらいの年齢なのだ。だから振り返りかたが似ていて面白かった。
誰でも30代後半から40歳前後にもなればこんなふうに思い出すのだろう。小説『ブラバン』には女子の風呂を覗くシーンがあるのだが、それで思い出したことがある。小学生のときの修学旅行で女子がいない間に女子の部屋に入り驚かそうとなって男子全員で待っていたら先生がやって来たことがあるのだ。あれも今となっては笑い話だ。
僕自身も小説の主人公と同じくエレキ・ベースを弾く。ただし、彼のようにコントラバスも弾くわけじゃないのでうらやましい。実はエレキ・ベースを買う前に欲しかったのがコントラバスのエレキ版であるアップライト・ベースなのだ。
20歳頃、キーボード(デジタルシンセサイザーRoland XP-10)を買い、シーケンサーやカセットMTRも買っていたので次に欲しくなった楽器がベースだったのだ。ちなみにドラムはキーボードの鍵盤を叩いてやっていた。ベースもキーボードで出来ないこともないのだが、どうしても欲しくなったのが弦楽器だったのだ。
ベースを買った後でエレアコギターとかウクレレとか三線を買ったのだが、それは後の話。楽器としても愛用のiPhone5sやNintendo3DSなどはもっともっと後、最近の話だ。
とにかくジャズ的な即興演奏を多重録音するにはエレキ・ベースが必要だったのだ。弦楽器への憧れは強いらしく今でもアップライト・ベースだとかチェロだとかは魅力的に見える。ヤフオクで買いもしないシタールを調べたりもする。(笑)
ここまで僕の感想を読んだ人の中で、小説の主人公はコントラバスを弾いたりエレキ・ベースを弾くってブラバンとは関係ないな、と感じる方もいるだろう。
主人公はコントラバスをブラバンで。エレキ・ベースを軽音楽部で弾くのだ。そして、コントラバスをエレキに改造したエレアコ・コントラバスとでも言えそうなものまで弾くことになる。
僕の20歳ぐらいの音楽への情熱がよみがえるという意味ではこれ以上の小説はないのだ。情熱だけが美しく記憶に残り、また新たな音楽への情熱につながればと思う。
徳村慎
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