小説『怪奇と夢の日記』2016.6.25.
徳村慎
1.暑い夜
暑くてTVに集中できない夜。まあたか。まあたか。と地の底から呼びかけるような声が聴こえる。僕の友人TAが殺した子供だろう。ヤッた後で殺すなんて残忍だ。まだ生きてるうちに毒蛇に咬ませるなんて。殺された子供が増えるたびに声が聴こえる。まあたか。まあたか。
2.網戸の音
網戸の音がする。振り向くと僕の部屋の網戸を外から開けているところだった。2階の窓にすがりついて開けている青白い女。ニタリと笑って蜘蛛のような下半身を見た途端、僕は気を失っていた。しばらく後で母親に助け起こされた。僕の握りしめていた木のお守りは2つに割れていた。
3.食器を洗う
食器を洗う少女は火傷(やけど)した禿げた頭だ。ただれた皮膚が赤黒い。キュッキュッとスポンジのかわりに自分の目玉を使っている。僕は台所に現れたそれから逃げた。そして何かにぶつかり足元を見ると大量の目玉が転がっていた。目を閉じて恐々(こわごわ)と目を開けると何も無い。あれから食器を洗うたびに思い出す。
4.はんだごての夢
夢を見た。はんだごてを使ってプラスチックだろうか、針金のような棒に作り物の花をくっつける作業。人工物の花は、やたらと美しい。もしかしたら天国か極楽のような場所の花飾りを作らされていたのではないか?……ニセモノの天国。
5.両生類の夢
幼い少女がオシッコをするのに隠れられるコンクリート岩壁を探している。さまよううちに学校のような施設に迷いこむ。学校では幼い少女が少年になっていた。肩車で元の場所へ帰ろうとする。僕らは両生類へと姿を変える。
6.バラバラ
バラバラ死体が池で発見されたとTVで報道していた。あのニュースで泥の塊のような死体のような影が映っていたのに誰も気づかなかったのだろうか?
似たような話を大学時代の友人から聞いたことがある。飼い犬が何かをくわえてきてよく見ると人間の手だったという。もう何年も前の話だが友人は警察に殺人事件の容疑者扱いされたという。
7.呪いは殺人にはならない
呪いは法律的には罰せられない。呪い殺しても殺人にはならない。僕のことを馬鹿にした男がいた。とある観光ホテルの偉いさんだ。僕の絵画を見てあんな物を作っても売れないとか言っていた。僕はその言葉が原因で当時自傷行為を繰り返したあげくに松林で首を吊ったが失敗した。その男は夏の盛りに草刈りをしていて熱中症で亡くなった。観光ホテルでは僕の呪いだとウワサが立ったが法律的には問題ないのだ。たとえ本物の呪いであっても。絵画は上手さではなく呪いの力があるかどうかだ。
8.ピアノ
ピアノの音が軽やかに響く。母が老後の楽しみにはじめたものだ。そのピアノが終わった後でピアノとともに叫び声が聞こえる。家族に確かめたが僕にしか聞こえないらしい。その方角を調べてみると、音大の受験を目指して挫折して自殺した男の子がいた。僕の友達はそれを調べた後で消息不明になった。僕には今日もピアノの音と叫び声が聞こえた。
9.能力の伝わり
高い霊能力を持つ者に接触したことで霊能力が開花することはままあるらしい。心が共鳴するのだろう。Kが恨んでる男は「何も見たくない」と言っていた。「俺はずっと見ていたい世界だけを描きたい」と。最近知ったのだが、彼は絵を描くときに手が震えるようになったらしい。彼が見ていたい世界は分かるが、見たくない世界が何だったのかは分からないのだ。
10.鴉(からす)
鴉の鳴き声を聞くと色々分かるものだ。あたたかい風が吹くときの鳴き声や冷たい風のときの鳴き声。あたたかい風のときは先祖が守ってくれているように思う。先祖が植物の日光を求める争いのようなものを繰り広げることもある。目に見えぬ争いだ。心の中の太陽の光を求めてオーラの陣取りゲームをするのだ。
2度目の鴉の鳴き声は僕じゃない者へのメッセージだった。呪いとか怒りのたぐいだろう。誰に鳴いているのかは分からない。けれども闇を抱えて飛び回る鴉だと分かる。同じ鴉であっても役割が違う鳴き声だ。あれも闇を栄養分として成長する植物のようなものだと思う。
11.他殺体
他殺体の発見された山道を通り過ぎて誰ともなく話しかけていると助手席に乗ってきた。何もいないのに影だけが濃くてヤバいと感じる。車を運転しているときに乗ってくるのは久しぶりだ。トンネルを抜けると消えた。
(おそらく続く)
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