小説『ロボボウズ』
徳村慎
人間は戒律を守れない。だから理想のお坊さんをロボットで作ろう。仏教哲学者P氏はロボットのお坊さん『ロボボウズ』開発に乗り出した。
かつて若かったP氏も頭がはげあがり杖にすがって生きねばならぬようになったころにロボボウズが完成した。
ロボボウズは、癌にむしばまれて死にゆくP氏に極楽浄土を説(と)き聞かせた。
「なあ、ロボボウズよ。極楽浄土も現世利益と変わらんなあ。何もない世界へと解脱したいもんだ」
ロボボウズは極楽浄土を説いたのは方便であり、実際は現世のしがらみとはお別れするのだと説き聞かせた。それが色即是空であると。
「しかし、なあ、ロボボウズよ。なんにも無いってのも、さみしいなあ」
ロボボウズは輪廻転生で人は六道をめぐるのだと説き聞かせた。
「ふうむ。俺は次は何に生まれ変わるんだろうな。ゴキブリに生まれ変わって人に殺されるのかもしれんなあ」
ロボボウズは「輪廻では、ありうるのです」と言った。
「すると殺虫剤を体中にねっとりとスプレーされて死ぬわけだ。ああ。そんな虫には生まれ変わりたくないなあ」
ロボボウズは「人に生まれ変わるのかもしれません」と言った。
「人か。いや、もういちど人生をやり直してもロボットのお坊さんを作るだけじゃつまらんしなあ。それに人間は喜怒哀楽の六道輪廻に生きているしなあ」
ロボボウズは「では天に生まれ変わるのかもしれません」と答えた。
「天か。しかし、天に生まれても楽しめない死が待つというもんなあ」
ロボボウズが言った。「では極楽に行くのでしょう」
「俺は長年仏教哲学を研究してきたが、果たして俺は極楽に行けるだろうか。行けるとしたら、お前みたいなロボットじゃないのか?……それに極楽浄土は方便だしな。やはり何にも生れ変われないんだろうな」
P氏が息をひきとると、ロボボウズは長年かけてP氏そっくりのロボットを作りあげた。そしてP氏そっくりの記憶と感情をロボットに与えた。
P氏そっくりのロボットは自分をP氏だと思い込んで生きている。ロボボウズと長年仏教哲学について語りあい、ある日、故障でロボットとしての命を失った。
果たしてロボットは極楽に行けたのだろうか?
ある人が言うには、P氏はロボットに生まれ変わってから極楽へと旅立ったのだと説明した。
確かにロボットに魂があるのなら極楽へと行けそうな気がする。
(了)
祖父の七回忌に記す。
iPhoneから送信