小説『かわりの夢』
徳村慎
人工知能が発達してロボットがものを考えられるようになった。それでも人間には追いつかない。
だからロボットは、こう考えた。
「僕のかわりに夢を実現してくれる人を探そう」
まずロボットは自分のかわりに小説を書いてくれる人を探した。
山の中で小説を書き続ける少女がいた。ロボットは熱烈な手紙を送ったが少女はきみわるく思ってロボットには近づかなくなってしまった。
都会で小説を書く少女がいた。相手がロボットだと知ると無視されてしまった。
外国で小説を書く少女がいた。ロボットの英語力では理解できずにいつしかやりとりがなくなった。
ロボットは気づいた。自分のイメージする小説を書いてくれる人なんていないのだ。
では自分で書こう。
ロボットは小説を書いたのだが、自分が小説を書いているのか、小説に自分が書かされているのかがわからなくなった。
ロボットは自分より優秀なロボットを作り出すことにした。優秀なロボットがさらに優秀なロボットを生み出せばいつかは小説が書けるロボットが生まれるはずだ。
ロボットはロボット作りに熱中した。いろんなロボットの作り方がわかった。
いつしかロボットはロボット製作のプロフェッショナルとして人々に認められた。
そしてロボットも定年をむかえて、ロボット製作の仕事をやめて趣味をはじめることにした。
そうだ。小説でも書こう。
ロボットはロボット製作の小説を書いた。誰にもまねのできない小説だった。
ロボットは小説家として成功した。
「ねぇ、パパ、どうしたら小説って書けるの?」と子供のロボットがロボットにたずねた。
ロボットは懸命に小説の書き方を教えた。
しかし、子供のロボットは教えられても、どうしたら小説が書けるのか、わからなかった。
だから、子供のロボットはこう考えた。
「僕のかわりに夢を実現してくれる人を探そう」
子供のロボットは世界中の小説家の卵と文通しはじめた。
あきらめずに文通して何十年もたった。
子供のロボットはいつしか大人になり、仕事のロボット製作の時間が増えた。
そのロボットが定年をむかえて本格的に小説でも書いてみようかと考えた。
そのロボットは文通の手紙をもとにした小説を書いた。世界中のあらゆる人の悩みや生活や生き方などがつまった素晴らしい小説となった。
そのロボットは小説家として成功した。
孫ロボットがたずねた。「どうしたら小説って書けるの?」
孫ロボットに徹底的に小説の書き方を教えたが孫ロボットは小説が嫌いになってしまった。
書きたいのに書けないスランプに孫ロボットは、こう考えた。「わたしのかわりに夢を実現してくれる人を探そう」
孫ロボットは小説家の卵である男の子に恋をした。
男の子は孫ロボットのためにいろんな小説を書いてくれた。
しかし、男の子は、ある日死んでしまった。ロボットよりも簡単に死んでしまうのが人間なのだ。
孫ロボットは男の子への想いを小説に書いた。素晴らしい小説ができあがった。
孫ロボットは小説家として成功した。
ひ孫ロボットがたずねた。
「どうしたら小説って書けるの?」
小説家であるロボットは、ふふふ、と笑った。
(了)
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