小説『可笑しな、お菓子』
徳村慎
リボンを解(ほど)く。袋の中には髑髏(どくろ)のクッキー。ひとつだけ髑髏なんて変だよね。私は、そんな可笑しな、お菓子を、どんな味かと食べてみた。しっとりしてて甘くって。サクサクなのにフワフワで。こんなに美味しいクッキーは、初めて食べると喜んだ。
変なことに気づいたの。髑髏のお菓子は、やっぱりね。可笑しな、お菓子だったのよ。この世の者でない者たちがドンドン視界に見えてきた。魔女も死人も妖魔なんかも、混ざっていたけど怖くない。私は世界を手に入れたんだ。これは神さまの贈り物。ハロウィンパーティーの魔法の旅路。
魔王は黒い太った猫で、「知恵の輪を解け、でなきゃ食う」そう言って皆んなを食べていた。魔女も死人も妖魔なんかも、みんな、みーんな、食べられた。
私は知恵の輪に近づいた。ふっと息を吹きかける。銀色に薄っすら白い文字。浮かんでいるのを覚えたの。すっとん、とことん、右回し。すっとん、とことん、上に下。すっとん、ぐるるん、左に動く。軽くねじれば外れるよ。
太った黒猫大慌て。お腹を殴ると皆んなが飛び出す。魔女も死人も妖魔なんかも、みんな、みーんな飛び出した。魔王の地位は貴女に譲る。そう言って、黒猫は欠伸(あくび)して、身体が小さくなっていく。にゃおん、と鳴いて伸びをして、どこかへ、スタスタ歩き去る。私は魔王だ、この次は、誰にクッキーを食べさせよう?……クッキー作りを早速、命じて、椅子にふんぞり返って座った。
(了)
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