小説『なちの姫神』カバパンダ編02 | まことアート・夢日記

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まことアート・夢日記、こと徳村慎/とくまこのブログ日記。
夢日記、メタ認知、俳句モドキ、詩、小説、音楽日記、ドローイング、デジタルペイント、コラージュ、写真など。2012.1.6.にブログをはじめる。統合失調症はもう20年ぐらい通院している。

夏子が那智、那智、と言っているが、ここ那智黒石の里は和歌山県の那智勝浦ではなく、三重県熊野市の神川町神上(かみかわちょうこうのうえ)だ。広辞泉に、那智黒石の産地を和歌山県と書いてあったので、熊野市が綾波書店に抗議をしたので最近、話題になっていた。
知ってるはずだろ、と幾ら克徳が夏子に指摘しても、那智黒石の岩盤がある処が、聖地那智なのだ、と夏子は言い張る。克徳の知識は確かに正確なものだ。日本全国でも那智黒石が産出するのは此処だけなのだから。しかし、夏子の考えとしてはパワーストーンとしての那智黒石の岩盤の在る熊野市の山こそが聖地であった。
それに、幼い頃から、智徳と克徳の兄弟に連れられて岩盤の近くで遊んでいたから、夏子は力を若くして手に入れたのだ。しかし、それには才能が必要である。霊的な能力は努力だけでは身につかない。特に夏子のような高みへと至ることが可能な霊力は。

夏子は東京の大学で、新興宗教のサークルと出会った。楽しく比較宗教学や神話学などを学べるという触れ込みの「神仏研究会」に誘われたのだ。
まあ、誘ったのが、髪の長さは違うが雰囲気は克徳に似ていた2年生だったから行ってみたというのもある。さすがにその日は夏子が克徳からもらった那智黒石で出来たお守りのペンダントを外してリュックに入れていた。だってもう会えないし。自分の力を拡げるには恋愛なんて必要無いもん。とか自分に言い聞かせて。
「先生の所で新入生歓迎の飲み会があるぜ。飲み放題だぞー」
なんて克徳に似た2年生、秀明は言った。
先生の家に着いて話している内に、夏子が入信の決心がつかないことに先生は腹を立てた。
「お前さんは神の怒りを受けるがいいわ」
先生と呼ばれる爺さんの教祖が、大きな手を夏子の頭に置いた。夏子の視覚は奪われた。目の前が真っ赤に染まったのだ。その瞬間、無意識にリュックの上から那智黒石のお守りを握り締めていた。
「ほう?まだ意識があるなんて気の強い娘っ子だわ」
さらに強い念を送ろうとする先生に向かって、頭に浮かんだ言葉を叫んだ。
「喝!」
その声と共に教祖の老人には見えた。夏子の背に翅が生えたのが。
「ふぐぅッ」
鼻血が噴き出す。このままでは、やられる。そう思った老人は弟子を呼ぶ。
「大雪(だいせつ)、小雪(しょうせつ)、わしに手を貸せ!」
2人の坊主頭が先生と呼ばれる老人の手に手を重ねた。
「負けないわよッ!」
翅が光りはじめた。那智黒石が微かに震えて力を与えてくれる。周りの弟子たちがお経を唱えて援護する。教団が力を合わせても、夏子の力は、どんどん大きくなる。
「ぐあああぁ」
教祖と大雪、小雪が苦痛に叫ぶ。汗びっしょりの教祖が歯を食いしばりながら声を絞り出す。
「ば……化物だ。まさか、お前が千年に一人の者だったとは」
それを奥の間で聞いていた2年生の秀明が、ぼそりと呟く。
「じゃあ、あいつを嫁にすれば日本の宗教界の天下が取れるな。そうなれば政財界など意のままだ」
千年に一人の逸材である若い娘が、東京で実力のあるとされた宗教団体「天の道人」を潰しかけた、という噂は日本全国の宗教団体のみならず世界中の関係者に急速に広まった。

「何、ニヤニヤしとんの?早く飲まんと、ぬるなるぞ」
克徳の兄の智徳は、冷えた麦茶が夏の暑気に温まってしまう、と言っているのだ。宗教団体を潰しかけたことで思い出し笑いをしていた夏子が顔を引き締める。
「お前の妄想癖は、凄いもんな。七色ダムに龍神が出た、とかさ。あと何だっけ? トンネルの霊をお経を唱えて鎮めた、とかさ」
「何、アンタ、信じてなかったの? アレって全部、ぜーんぶ、ホントなんだからね」
「ハイハイ、高校では狸に取り憑かれた数学教師を救ったんだよなー? 大体、狸って何?狐なら分かるけどさ」
「その時は狐じゃなく狸だったの! アンタも手伝ったでしょ!」
「アレはノイローゼか、ヒステリーか、何か精神的に参ってたんだろ?」
「ぜんっぜん、分かってないッ」
そっぽ向いて玄関に眼をやると、克徳が小学生ぐらいの少女と楽しげに話していて、もっと頭に来た。
「このロリコンッ! そんなガキと喋ってんじゃないわよ!」
すると少女が、さも鬼の首を取ったような表情で言い放つ。
「残念でしたァ。夏子さんっていうんだよね。東京でカレシでも作ったらァ?克徳お兄ちゃんは奈々と結婚する約束なんだよー?」
克徳は、こっちを振り向かずに居て、表情は見えない。
あー、克徳なんか守ってあげるんじゃなかった。こんな奴、幽魔に食われりゃ良かったんだ。凄い勢いで少女と克徳の居る玄関から背を向けて、乱暴に麦茶を飲み干す。
「そうそう。ぬるくなる前に飲まんと」
そう言って笑う目の前の智徳も、何だか寂しそうな顔をしていて、彼女が居るクセに何で寂しそうなのよ、と夏子は心の中で毒づいた。

「さっさと切ってよ。ジュエリー作るんでしょ?」
夏子は、すごい笑顔。ちょっと怖い。
「今、切るところだよォ。たぶん、爺ちゃんの言ってた宝なのになァ。あー、もったいない」
これで呪いを受けるんじゃなかろうか。
「アンタ、いつもは、世界中の石を彫刻したい、出来ることなら火星に行って火星の石も彫刻してみたい、なんて言ってるクセに」
まるで僕が石を切れないみたいじゃないか。
「じゃ、切るよ」
ヤケクソだ。
蛇口をひねると井戸のポンプが動くモーターの音が聞こえる。水が円ノコに細い線となって注がれる。これは手持ち用の電動ノコギリを改良したものだ。爺さんと父さんが作ったらしい。特別注文で作らせた鉄の台に逆向きに天に向けてノコ刃がセットされていて、スイッチも別に作られている。
ブレーカーに似たスイッチを押し上げると水飛沫を飛ばしながら円ノコが回転する。ダイヤモンドカッターの刃は小さいものなら、どんな石でも切って来た。
光る石の宝物を刃に押し当てると、ガリガリガリッと嫌な音がする。ジュギーン、カラカラカラ。回転が止まった。金属用の錆び落としのような異臭がした。後で調べると、カーボンは一瞬で溶けて、ベアリングは壊れていた。しかも、ダイヤモンドカッターの刃は一瞬で磨耗して切れなくなっている。
「え゛え゛ー? なんで?」
僕は光る石を確かめたが傷一つ入っていない。
「やっぱりね。大学に昔スミソニアン博物館で成分分析してた教授が居るから調べてもらおっかな?」
夏子は涼しい顔で言う。まるで結果が分かっていたようだ。
夏子は心の中で考えていた。こんな仏宝が科学者の手で、いじくり回されるなんて時間の無駄よ、と。


*読んで頂きありがとうございます。この話は夏凪さん(→Amebaブログ 大きな空の下で)との共作です。

夏凪さんは、カバパンダの小説の先生です。→いや、写真も習っているようなもんだけど。写真の『ラブラドライト』では、水面の映り込みを写す手法をモロにパクりました。(笑)

この後の展開が、どうなるのかは全く予想出来ません。たぶん、燃え尽きたよ真っ白にな、なんて終わり方ではないと思います。(笑)→ジョーかよ。

何度でも読み返しなさい、と夏凪さんは言います。何度も読み返していますが、至らぬ所もあるかと思います。

この小説は夏凪さんの発表から一週間を期限にしています。カバパンダに期限を与え過ぎると小説が上手くならないから、との配慮なのでしょう。決してドSだなんて誰も思っていません。たぶん。(笑) →こんなことを書くと3日に期限を縮められそうで怖い。

では続きを夏凪さんの、『なちの姫神「水の編」03』で読んで下さいね。
(^O^)/





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