図書室は桜と泉だけになった。桜が「じゃ。リズムの特訓はじめるで」と気合いの入った声で言う。
「うん。分かった」泉は素直にうなずく。
「じゃ、8(エイト)ビートから。シンコペーションをやるで。スネアの位置をズラすんやで」と桜。
「スネアの代わりにシンセ音のザップのヤツでやるね」と泉。言われた通りに、スネアの代わりのザップ音がどんどんズレていく。
ピツツツ、ピツツツ。×4
ツピツツ、ツピツツ。×4
ツツピツ、ツツピツ。×4
ツツツピ、ツツツピ。×4
その次に、少し複雑なリズムをやる。
ピツツ、ピツツ、ピツ。×4
「これは4でノルと、ピツツピ、ツツピツ。やけど、3、3、2でノルから、ピツツ、ピツツ、ピツ。ね」
手で頭の拍を叩きながら説明する桜。
「ふー。桜ちゃん、こんな練習方法よう思いついたね…。ってそのノート何?桜ちゃんの字じゃないやん。…コレ、奈々さんの?」泉の眼が鋭くなる。泉は続けて言った。「ひどい。アサミー・メイデンと別れて、私と組んだんじゃなかったん?奈々さんの方が上手いとか思ったァるんやろ!」
「悪いけど、奈々のテクニックには勝てんわ。だからこうしてノートを借りてきて教えやるんやん」と桜。
「ドラムと同じ教え方でええん?コレはカオシレーターやで。私はカオシレーターの使い手やもん。そんなにドラムと組みたいんやったらアサミー・メイデンに戻ったらええやん」泉が目に涙をためながら訴える。「桜ちゃん信用出来ん。私、翔君のバンドに入れてもらうから」
「ちょっと待ってよ。せっかくテクノ・アッシャーが良くなってきやるのに」
「桜ちゃん、大嫌い!」泉はカオシレーターとミニアンプを置いたまま図書室を出て走り去った。