「未来の音楽」というタイトルだが、収録されているのはシューベルトの最後の3つのピアノ・ソナタ。歴史的鍵盤楽器のスペシャリスト、トビアス・コッホはすでにロマン派の音楽も録音しているのでシューベルトを録音するのは驚くに当たらないのだが、コッホはこれを未来の音楽だというのだ。楽器はコンラート・グラーフのフォルテピアノ。歴史的楽器による演奏はロマン的慣習を断ち切るというスタンスにあって、とかくテンポが速いことが多いのだが、コッホのシューベルトはとにかく遅い。おおむねアファナシェフより遅い。特に第21番の第1楽章など、31 分39秒。永遠に続くかのようだ。「未来の音楽」かどうかわからないが、かつてなく、今後もあり得ない音楽という気がしてくるすごい演奏。