夜中にふと便所に起きると、台所に水を満たしたコップが置いてあるのに気づいた。喉の渇きを覚えて、なにげなくそれを取り上げて飲もうとすると、底に黒いものが固まって沈んでいるのに気付いた。
ぎょっとしてよく見ると、その黒い塊が一片、ひよひよと泳ぎだした。一瞬にして、眠気が吹っ飛ぶ。
「かぁぐぅらぁああああ! テメェの仕業かァああああ!」
近所迷惑も忘れて全力で喚きながら、銀時は玄関口の方に駆け込み、神楽がねぐらにしている押入れの戸を蹴破った。
叩き起こされた神楽は、年頃の少女とも思えない豪快な寝癖をつけ、目やにをぶら下げた顔を拳でこすりながら「ハイハイ何アル、こんな夜中に。ママンのオッパイが恋しいアルか。これだから男はダメアル」などと言い放った。
「誰のオッパイだ。てめぇ、前も後ろも分からねぇような平たい胴体しやがって」
「んだよ、私だってあと三年もすれば、すげぇくなるって言われたヨ、これから輝くんだヨ」
「誰に言われたんだ」
「オッサン」
「どこのオッサンだ」
「名前は知らないアル。聞いたかもしれないけど、忘れたアル」
「あのな、知らねぇオッサンの言うこと真に受けてんじゃねぇよ。大体、俺らサザエさん方式で年とらねぇんだから、あと三年っていっても永遠に来ないからね。バレンタインデーネタも正月ネタもクリスマスネタも、毎年律儀にこなしてるから、コナンみたいにあんだけ長年連載していて、実は三カ月間の出来事でしたぁーって、衝撃の事実は無いからね」
「マジでか! コナンって三カ月の間にどれだけヒト死んでるヨ、毎日大量殺人アルな、米花町の治安すげーなオイ、ジェノサイトアルな、バトルロワイヤルアルな」
「どこに食いついてんだよ! そうじゃなくて、これ! 台所にあったこれ!」
銀時が鬼の形相で、先ほどのコップを突きつけるが、神楽は悪びれもせずに「コレ? 夕方、新八帰るのを見送って戻ろうとしたら、ボトボトって降ってきたヨ」 と答えた。
「はぁ? 降ってきたって、コイツがか」
「コレ、水に住むイキモノだよネ」
「ああ、オタマジャクシだな。カエルの子供だ」
「水が無いところで跳ねてて可哀想だったから、拾ってあげたアル。つぶさないように、頑張ったアル」
神楽は、見かけは華奢な少女でありながら、凄まじい戦闘能力を誇る夜兎族である故、その怪力を制御するのは難しい。些細な動作で物をブッ壊すのは日常茶飯事。だからこそ、握りつぶしたりする不安もなく思い切り触れ合える巨大な狗神に「定春」と名付けて可愛がっているのだ。それを思い出して、銀時はあらためてコップの中を眺めた。
「そうかい、頑張ったんだな」
その神楽が頑張って拾った生物は、ほとんど潰れて得体のしれないヘドロのようになっていたが、奇跡的に生き延びたらしい一匹は、多少ひしゃげた尾を引きずりながらも、けなげに泳ぎ続けていた。
去年話題になった、空からオタマジャクシが降って来たというネタ。某SNSでのキリ番リクエスト小説です。