レコード音楽は無料にし、アーティストはライブで稼ぐべきか。(本題編) | ただの音楽好きの戯言

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元CD屋さん邦楽ロック担当です。
現職は全然音楽とは無関係でございます。
とりあえず、戯言ブログに変更。
あと、結構辛辣なことを言ったりするかも、御心を害しましたら失礼。

さて、記事分けしたので続きを書きましょう。
という訳で、ご挨拶、改めましてこんばんわ。
どうも、カバです。

こちらの記事へ飛んでこられた方は、導入編の方もお読みいただけたら幸いです。
http://amba.to/JGuhyl

それから、この記事にて本題へ突入いたします。
次のWebニュース記事も参照しながらお読みいただければと思います。

「レコード音楽は無料であるべき」と考えるGroovesharkの「6つの理由」
http://www.gizmodo.jp/2012/04/grooveshark6.html

では、本題へ入りたいと思います。

レコード音楽は無料にし、アーティストはライブで稼ぐべきか。
私個人の答えを冒頭で言えば、答えは「否」である。
正確に言えば、「的を得ているが、現実問題厳しい」と言うべきでしょうか。

この企業が問題提起しているのは、アーティストに対するロイヤリティの問題と、レーベルの体質に対する問題です。

日本の音楽業界におけるアーティストのロイヤリティに関しては、次のサイトを参考にしていただけたらと思います。
http://www.musicable.net/seminor/business/4-02.htm
http://www.musicable.net/seminor/business/4-03.htm

はっきり言って、現状ではアーティストの収入というのは圧倒的に低いと言わざるを得ません。
特に、新人・若手アーティストを応援している自分としては慚愧に堪えない心境です。
あまりに中間搾取が多すぎる、と(自分の勤めているCDショップを含めて)。
また、レーベル体質の問題もアーティストの中間搾取の問題につながります。

さて、ここだけを見ると、「どう見たってアーティストが可哀想じゃないか、レーベル等を含めて音楽業界が完全に糞じゃないか」という考えに陥ると思います。
というか、自分もはっきり言ってそんな気になりました。
嗚呼、自分はアーティストさんを応援したい、好きな音楽を皆さんに広めたいという気持ちでCDショップ店員やってるのに、これじゃあ本末転倒じゃないか、と。

あまりにセンセーショナルな話ですからね。

しかしながら、問題は、では「レコード音楽は無料にし」てしまって良いのか。
そもそも、ライブだけで稼げるのか、という話です。

「レコード音楽」というと「CD」が想起され、すぐに「『オワコン』だから要らないだろ。」と言われそうですので、音楽コンテンツと表現させて頂きます。

音楽コンテンツが出来上がる過程を順々に見ていくと、
アーティストさんが楽曲を作るという行為、まずそこにロイヤリティが発生する。
録音する場所の費用、エンジニアの費用、機材が必要になってきます。
とりあえず、これで「楽曲」という音楽コンテンツは製作可能です。

あれ?意外と少ない?と思うでしょう。
では、最も手っ取り早くiTunes Storeでの有償ダウンロードコンテンツとして販売する形を取りましょう。
次のサイトを参考にしてみます。
http://d.hatena.ne.jp/bonar/20071128/1196273616

iTunes Storeで販売できるまでにかかるコストは、$55(登録料的な部分)+空CD代+送料\400となります。
となると、大体\6,000ぐらいあれば販売できることになります。
アルバムを1枚\100にしても60枚売れれば、登録料ぐらいは回収できそうです。

インディーズであれば、それこそ問題ないでしょう。
元々の本業があって、副業的にアーティスト活動をするのであれば恐らく。
レコーディング機材やエンジニア部分に関しても、機材のある人や知識のある人が友人に居れば、低価格で可能だと思います。
かく言う自分も、昔所属していたバンドで先輩に頼んでレコーディングしてもらってハンドメイドのCDを作ったことがあるので可能だと思います。

でも、これはあくまでインディーズレベルのお話です。
正直、音楽を本業としては食っていけないでしょう。

じゃあ、プロとしてやっていくならどうか。
バンド形態であったとしても、機材にこだわるなら機材使用料ないし購入料、録音環境の整備もしくは使用料、プロの録音エンジニアに対する人件費、大体これぐらいでしょうか。
ソロシンガーに関してなら、作詞者・作曲者に対するロイヤリティ、楽曲の奏者への人件費も、そこに加算されます。

プロじゃないので想定できないですが、これだけ多くのモノや人が関わっているので、費用は膨大になっていると思います。
ですが、多くのモノや人が関わっているからこそ、アーティストの技術や才能だけではない、サウンド面で質の高い音楽コンテンツが制作できるわけです。

さて、プロの音楽コンテンツが製作されました。
ここからプロとして収益を上げるためには、お金がかかりまくりです。
まず製作費を回収せねばなりませんし、アーティストの生活費を稼がねばなりません。
その為には何が必要か、宣伝費用です。

ってなわけで、宣伝費用に膨大なお金をまた注ぎ込みます。
すると、宣伝費用の回収のために更に稼ぐ必要があります。

という無限ループに陥るわけですね。

さあ、エライことです、大変なことです。
正直、無料で音楽コンテンツが作れるわけがないって訳です。

となるわけで、音楽コンテンツなんて作らずに、ライブで稼げばいいじゃないか、という話になるわけですが。

どんなアーティストであれ、ライブに出始めた時点では無名です。
ライブに出ました、とはいえ無名のアーティストが出られるライブは、ライブハウスによる対バン企画が最初です。
そこでライブハウスの方に名前を覚えていただいて、コネクションが出来て、インディーズアーティストさんのツアーでの対バンに出させていただく。
その間に、どれだけファンが付くでしょうか。
はっきり言って、それだけでプロとしてやっていけるほどファンが付くアーティストを見たことがない。
下積み期間が相当長くなるのは間違いないでしょう。
そもそも現状、純粋にライブだけで音源リリースをしてないアーティストなんて滅多にいないので、実際どうなのかは分かりません。

じゃあ、現状、なんでアーティストが毎年多数出てくるかというと、レーベルの方が新人発掘としてライブハウスを回ったりして有望そうなアーティストを見出している。
で、契約して、宣伝して…って形になってる訳です。

あれ?レーベルとの関係は不可避じゃね?ってなると思います。

更に、知名度が上昇してきて全国ツアーとかするようになったとしても、セルフマネジメントする余裕があれば別ですが、ブッキングやスケジュール管理を会社なり誰かにマネジメント委託をするのが常道です。
そうであれば、人件費や契約料が更に発生するわけです、で、ライブをした収益からマネジメント料も支払われる訳です。

他にも、諸々お金の問題が...
って具合に、ライブだけやるにしても、膨大なお金がかかるわけです。
加えて言えば、ライブするのにだって宣伝費がかかる場合もある訳で。

ってな風に、ライブだけで稼げるアーティストというのも、ある一定のファンが付くまでは存在し得ないでしょう。
そもそも、ライブで見てファンになりました!!って人が、音楽ファン(音楽コンテンツやライブに行く人)の何%居るのやら。
そもそも、自分自身、好きなアーティストの多くはYoutubeなり試聴機なり、音源から入っています。
というか、そういう方々が多数を占めていると思います。
であるならば、音源製作費が不可避となってきます。

じゃあ、やっぱり宣伝費がマズイんでしょ?
ほら、Groovesharkでは、うちで宣伝すればなんとかなるって言ってるよ!!って思うかもしれません。

じゃあ、全てのアーティストがGroovesharkの形式で宣伝するとして、一体どれだけの宣伝効果があるでしょうか。

現状、Groovesharkにて宣伝されてるのは、15組のアーティストだけです。
そして、Groovesharkの利用者は3000万人。
1時間の視聴を継続していると、不可避な宣伝のミュージックビデオが1回流れるというシステムだそうです。
そのシステムで、3週間で50万再生を記録したとか。
そして、自分たちの規模が10倍になれば、3習慣で500万再生を可能だとしています。
果たして、本当に可能でしょうか。

現在アーティストと呼ばれる方々はインディーズを含めたら無数に存在します。
しかも、それが全世界に。
仮に少なく見積もったとして、10万組としましょう。
Groovesharkが全世界的に認められているとして、利用ユーザーはどれぐらいでしょう。
技術発達のレベルを考えても先進国+αぐらいでしょうか。
全世界のネット利用者は20億人と言われてます、好意的に見て、その利用者がGroovesharkをすべて利用しているとしましょう。

15組のアーティストが50万回再生されているので、合計再生数は15*50=750万回です。
3000万人が750万回の再生ですから、1万人あたり、750/3000=0.25万(2500)回再生していることになります。
と言うことは、20億人の再生回数能力は、200000*0.25=50000万再生、すなわち50億回です。
50億回を10万人で割ると、1アーティストあたり5千回再生になります。

1アーティストあたり5千回再生、これって再生による宣伝効果はガタ落ちではないでしょうか。
あまりこんな言い方は良くないでしょうが、共同創業者なのに数学的な計算ができないのですか?
しかも、アクセスする国を問わずに再生されますから、仮にこのシステムを通じて知名度を上げたとしても、どれだけのアーティストが海外公演をするでしょうか。
しかも、英詞を歌うアーティストならまだしも、日本語のアーティストであれば、かなり不利です。

じゃあ、日本だけに限定してみます?
1万人あたりの再生回数能力2500回として、国内アーティストを1万人、ユーザーを1億人として計算すると、
1アーティストあたりの再生回数は2万5千回。
全世界レベルよりはマシになりましたし、ツアーも全国回れそうですが、現状のYoutubeより宣伝効果薄そうです。

計算しながら、今考えましたが、海外ツアーなんて普段からできるもんじゃないですよね。
ってことは、海外向けに楽曲を無料配信してもライブ収入は大して見込めない、ってことは各国で音楽のガラパゴス化が起こりそうです。
海外の音楽の方が質がいい、日本の音楽は糞だから聴かないって方々は涙目になりそうですね♪

ってな感じで、不協和音だらけです。
勿論、これは単純に再生数だけを見てますから、口コミなんかの宣伝効果は加味していません。
しかし、現状の口コミ効果を鑑みれば、効果覿面だ、とは言いがたいです。

さて、書きながら途中で、「あれ、俺、間違ってるくね?」って思って焦りましたが、数値計算してみたらやっぱり厳しそうなのでホッとしてます。

それは、別にCDショップ店員が無価値だとかそういうのではなくて、「音楽コンテンツが無料にしてライブで稼げばアーティストの生活は成り立つ」という考えがあまりに暴論ないし極論だということです。

完全論破する気はないので、間違ってたら指摘してください。
個人的に、このGroovesharkの共同創業者の方が言ってることが、詭弁に思えたのです。

では、このままで良いのかと言われると、それが良いとは思いません。
最後に、僕の意見を述べたいのですが、既に4千字を超えているので、次の記事で書きたいと思います。

では、また長くなったので、この辺で。