忘年会ラッシュのピークとなった今月の中旬、久しぶりに夜の店で声を荒げてしまった
もう7年近く通うこの店は、銀座としては良心的安心プライスだし、接待でもプライベートでも、馴染みの女の子達は勘はいいし可愛いし、今年最後の得意先に対しても、安心して任せられると高をくくっていたのである。ところが。。。25人も入れば満席となる店内に、この日はあらかじめ予約していた常連客以外にも、忘年会を終えた流れ客も次から次へと来店し、カウンター席までギュウ
ギュウ詰め状態。しかもこの繁忙期に女の子はママを含めても7人と、明らかにキャパオーバー
となっていて、もう店内はしっちゃかめっちゃか
かろうじてウチの社長と先方の部長には女の子が付いているものの、向こう側にいる双方の部下達は、男5人で“商談中
”になっている。お気に入りのエリー
や舞
が、何度か遠目に笑顔を送ってはくれるものの、2人とも持ち場では3~4人を接客中で、とてもこちらのテーブルに移ってこれる状態ではない。状況は理解しているものの、こちらは半月も前から8人の団体になるこの日の接待については話してあったのに、どうしてこういう対応になってしまうのかと、疑問が少しずつ怒りに変わり始めてとうとう堪忍袋の緒が切れた
「ママさあ、なんなんだよ、この対応は
」
「ゴメンナサイ、ポッキーちゃん。私も一生懸命やってるのよ
」
「一生懸命とかじゃなくて、何で師走のくそ忙しい時期に7人しかシフト組んでないのかって話だよ
この時期は10人以上で回さないと対応出来ないって事ぐらい、客の俺でもわかるわっ
俺この前の舞のバースデーで来た時、紙に書いて渡したよねえ。今月は2日・9日・11日・17日・22日に使わせてもらうからって。で特に9日と17日は大事な接待だからって
それでこの対応はないんじゃないの
」
「女の子達のお休みが重なっちゃって。。。
」
「ヘルプ頼めばいいじゃんよぉー
」
「ヘルプもいっぱいだったのよ
」
「そんなわけねーだろー
ママ、銀座で何十年商売してんのよ
酒のサービスなんか要らないから女の子をちゃんと揃えてよ
さっき、なっちゃんにもすぐ来るようにLINE
したから
」と事前に用意してくれたスコッチのボトル
を戻そうとすると、そばで見ていた社長が
「いやいやポッキー
これはマッカランだぞ。この酒は高くてうまいんだ。せっかくなんだから、これはいただいておこう
」と酔いながらも冷静な一言。
「そうですか。じゃあお酒はご馳走になるよ。。。でも今日の対応は、俺は納得出来ないからね
」
「ハイッ。。。
」
「本当にゴメンナサイ、ポッキーさん。いっぱい来てくれるポッキーさんに、イヤな思いさせちゃって
」 さっきまで別の席についていたユッキーナが、相変わらずご機嫌斜めな自分をなだめにきた。BGMには部下の
カンサイが歌う、調子っぱずれの
恋人はサンタクロース
。
「ったく、ヘッタクソだなあ
おめぇん家には、サンタクロースなんて来ねえよ
」と更なる毒を吐きながら、ユッキーナに改めて能書きをたれる。
「男はさあ、なんで飲み屋に来るかわかるかい
(
なんでですか
)。それはさあ、会社や家庭で失った自信やプライドを取り戻しに来るんだよ。いらっしゃいませぇーって笑顔で迎えられてさ。管を巻いても明るく相槌を打ってもらってさ。カラオケ歌えば、上手!素敵ぃ!って褒めてもらってさ。それがお世辞やお上手だってわかっていても、やっぱり心地よくってさ
それなのに、そこでさ、ないがしろにされちゃったら立つ瀬がないじゃん
そーゆー事わかんないんだったら、水商売なんて辞めた方がいいよ
」
今月5回目となる翌週の予約は、キャンセルさせてもらった。そんな事、毎日が満員御礼のこの店には、痛くもかゆくもないだろうが、こっちにだって意地がある。プライドがある。
それが自分なりの、ささやかながらの、夜の銀座の流儀としておこう。