亡くなられた上司は、「わかった。そんなに悩み苦しむのではないよ。」との慰めの言葉を丁寧にかけてくれ、何か心がすーと軽くなるのを覚えた。それでも、何とか具体的な答えを求めてよりすがったところ、「どんな物事も成るようにしかならない。」だった。決して消極的ではなく、自分が最善を尽くしていれば、もう良いとの受けとめをした。
最後に、住む世界が二人にとって違うことがいくら夢といえどもわかっていたので、「何か不自由はないですか。この世のことで」と問うたら、「桃が食べたい」との返事だった。
早速、果物屋で桃をご自宅にお送りした。
前もって、顔をご存知だった奥さんに亡くなったご主人さんとの会話をお伝えした。とても、喜んでくださった。これが約25年前の出来事である。
今回、ご自宅に線香を手向けたいと奥さんに電話を入れた。
ところが電話の向こうに出られた女性は、怪訝そうに、もう亡くなったことを伝えてきた。奥さんも2年前に急に死亡されていた。まだ70歳前かと。
孔子は、「子、川の上に在りて曰く、逝く者はかくの如きか。昼夜をおかず」と述べた。
先の見えてきた自分には、生きてきたこの世に少しでもお返しが出来ればと心底思っている。