文献:
V.V. Nikulin,
Integral symmetric bilinear forms and some of their applications,
Izv. Akad. Nauk SSSR Ser Mat. 43-1 (1979), 111--177.
= Math. USSR Izv. 14-1 (1980), 103--167.
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定理3.10.1
Μ_{n,k}(R)の連結成分は,
polarized integral involution (偏極対合付き格子) (L,φ, h)
(ここで,φは,lattice L上のformを保つhomomorphismであるようなinvolution,
h ∈L) で,L が even unimodular lattice of signature (3,19) (つまり,K3格子),
φ(h)=-h, h はLの中でprimitive, t_(+) = 1, h^2 =n であるものの同型類
と bijectiveに対応する.
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ここで,φのfixed part E_+ 上のsignatureを (t_(+), t_(-)) とする.
この定理(定式化はこちら
)の証明の概要は以下のとおり:
注意事項
[1] Μ_{n,k}(R)は,ヒルベルトスキームH_{n,k}(R)をPGL(N+1, R)で割ったものであった.
[2] H_{n,k}(R)の各連結成分に対し,そこに属する実代数的偏極K3曲面の
「associated polarized integral involution(L,φ, h)」の同型類は決まる.
Μ_{n,k}(R)に対してもそうである.
また,そのようなpolarized integral involution (L,φ, h) は,
φがlattice L上のformを保つhomomorphismであるようなinvolution,
h ∈L,L は even unimodular lattice of signature (3,19) (つまり,K3格子),
φ(h)=-h, h はLの中でprimitive, t_(+) = 1, h^2 =n という性質を持つ.
[3] Pijateckii-Shapiro and Shafarevichによる代数的K3曲面に対する大域的トレリ定理
の主張においては,
2次元コホモロジー上のisometryからK3曲面間の複素解析的同型が決まるということも重要である.
これにより,K3曲面上の反正則対合の存在(実K3曲面であること)もいえる.
[4] (L,φ, h)のautomorphismで移りあうような周期を「equivalentな周期」という.
[3]により,ある周期に対応する偏極実K3曲面が存在すれば,
それにequivalentな周期に対応する偏極実K3曲面が存在する.
特に,ルートにおける鏡映も, (L,φ, h)のautomorphismである.
V. S. Kulikov,“Surjectivity of the period mapping for
UMN, 32:4(196) (1977),
は,(L,h)のautomorphismsの,周期領域への作用に関する商空間への全射性を言っている.
しかし,代数的K3曲面に対応する周期については,こちら を参照!
[5] 周期を実部と虚部に分け,その対として,「実代数的K3曲面の周期」を考えていく.
[6] n=2, n=4 の場合は特別扱いを要する.
[7] polarized integral involution (L,φ, h) のひとつの同型類を固定すると,それに対し,
周期領域のある部分集合 Ω_{φ, h, k} が定義される.この集合は連結である.
この各点に対して,Kulikovによる周期写像の全射性を用いて,
ある実代数的偏極K3曲面が対応するが,
それらのK3曲面は,P^N(R)の可逆実線形変換を除いて一意的である.
この,「実」の部分の主張は,Kharlamov(1976)の論法をまねている.
P^Nへの埋め込みについては,Saint-Donatの結果を用いている.
周期写像によりΩ_{φ, h, k} の点に対応するような実代数的偏極K3曲面に対して,
そのassociated polarized integral involutionの同型類は(L,φ, h)である.
[8] H_{n,k}(R) のいくつかの連結成分が,周期写像により,
ひとつのΩ_{φ, h, k} のopen coveringをなしているが,Ω_{φ, h, k} の連結性により,
それらの各連結成分は,それぞれ,Ω_{φ, h, k} 全体上に写る.
また,[7]前半により,Ω_{φ, h, k} に写るようなH_{n,k}(R) の連結成分たちは,
projectively equivalentである.
説明:
H_{n,k}(R)のひとつの連結成分C上の点(実代数的偏極K3曲面)を,周期写像により周期領域に写すとき,その実代数的偏極K3曲面のassociated polarized integral involutionの同型類を(L,φ, h)とすると,周期点はΩ_{φ, h, k}に含まれるはずである.[2]より,H_{n,k}(R)の各連結成分に対し,そこに属する実代数的偏極K3曲面のassociated polarized integral involutionの同型類は決まるので,さきほどの連結成分C上のすべての点は,周期写像により,Ω_{φ, h, k}の中に写ることになる.
周期写像はΜ_{n,k}(R)上の局所解析的同型写像である(Pijateckii-Shapiro and Shafarevich参照)ことから,さきほどの連結成分Cの像は,Ω_{φ, h, k}の中の開集合である.
仮に,その開集合がΩ_{φ, h, k}全体に一致しないとしよう.
その開集合に属さないΩ_{φ, h, k}の点を考えると,[7]より,それに対応する実代数的偏極K3曲面を考えると,そのassociated polarized integral involutionの同型類は(L,φ, h)なので,その実代数的偏極K3曲面は,やはり,H_{n,k}(R)に属することになる.それを含むH_{n,k}(R)の連結成分C'(これはCではない)を考えると,さきほどと同様に,連結成分C'上のすべての点は,周期写像により,Ω_{φ, h, k}の中に写る.このようにして,Ω_{φ, h, k}は,H_{n,k}(R)のいくつかの連結成分により,周期写像によりopen coverされていることがわかる.さきほども述べたように,それらの連結成分の像はΩ_{φ, h, k}の開集合である.もし,2つの連結成分の像が交わるとすれば,[7]により,それらの2つの連結成分は,PGL(N+1, R)の作用で写りあい,像は完全に一致するはずである.このようにして,Ω_{φ, h, k}は,周期写像により,H_{n,k}(R)のいくつかの連結成分により,open coverされ,しかも,それらのopen setたちはdisjointであることになる.ところが,Ω_{φ, h, k}は連結なので,結局,
さきほどのH_{n,k}(R)の連結成分Cの周期写像による像はΩ_{φ, h, k}全体であることがわかった.
そして,H_{n,k}(R)の別の連結成分'もΩ_{φ, h, k}に写るとすれば,これらの2つの連結成分は,PGL(N+1, R)の作用で写りあい(すなわち,Μ_{n,k}(R)においては同じ連結成分),後者の連結成分の像もΩ_{φ, h, k}全体であることがわかった.
証明の完結:
まず,Μ_{n,k}(R)の各連結成分に対し,
polarized integral involution (L,φ, h) (ここで,φは,lattice L上のformを保つhomomorphismであるようなinvolution,h ∈L) で,L が even unimodular lattice of signature (3,19) (つまり,K3格子),φ(h)=-h, h はLの中でprimitive, t_(+) = 1, h^2 =n であるものの同型類
がただひとつ対応するのであった.(ここまでは,対応がwell-definedであること)
逆に,上のような性質を持つpolarized integral involution (L,φ, h)の同型類(ここでは,φが重要!)を与えると,それに対し,Ω_{φ, h, k}を考えると,[7]により,この各点に対して,ある実代数的偏極K3曲面が周期写像で対応するが,そのassociated polarized integral involutionの同型類は(L,φ, h)であることから,その実代数的偏極K3曲面は,H_{n,k}(R)に属する.これで,対応の全射性が言えた.
次に,H_{n,k}(R)の2つの連結成分のassociated polarized integral involutionが同じ同型類(L,φ, h)だとする.すると,それらの連結成分を周期写像により周期領域に写すと,上記説明のとおり,像は,Ω_{φ, h, k}に含まれる.また,上記説明により,それぞれの連結成分の像はΩ_{φ, h, k}全体であり,これらの2つの連結成分は,PGL(N+1, R)の作用で写りあう.すなわち,Μ_{n,k}(R)においては同じ連結成分なのである.これで,単射性が言えた.
補足注意:
ロシア語からの英訳に少々誤訳があると思われる.記号の誤植も多い.