「数学」2009年4月号,西納武男さんによる,
Itenberg Mikhalkin Shustin 著
"Tropical Algebraic Geometry" (Birkhauser, 2007) の書評.
本書は2004年10月に行われたoberwolfachでのTropical Algebraic Geometryのセミナー(大学院生対象の勉強会)の講義をもとに書かれている.
トロピカル幾何を理解するために必要な予備知識は元々多くない.
トロピカル幾何の手法よりもそれ以前からあったpatchworkingの考え方の解説が多くの部分を占める.
トロピカル幾何という命名はMikhalkinとSturmfelsによる(2002)
トロピカル幾何の2つの流れ Mikhalkin・・・幾何的 Sturmfels・・・組合せ論的
根幹にあるのは,Viroのpatchworking
この本では,グレブナ基底を主な道具とする組合せ論的アプローチには一切言及されていない.
第1章 Mikhalkinによるトロピカル幾何入門
主に超曲面について
アメーバ,非アルキメデス的アメーバの定義,トロピカル代数,
トロピカル多項式の「零点」としてトロピカル超曲面
より一般のトロピカル多様体の定義
本書では,1次元,すなわち,トロピカル曲線の定義のみ与えているが,この内容を発展させて,
高次元の場合の定義が可能で,現在あるトロピカル多様体の定義のなかでは最も広いクラスの対象を扱える.
第2章 本書の中心,Shustinによる執筆
トロピカル幾何とpatchworkingの関係
複素数体上のトーリック幾何, トーリック多様体の実部について
Viroによる代数超曲面のpatchworking
これは,実平面代数曲線の構成に有効であり,任意次元の超曲面に対し機能する.
Viroにより,30年近くも前に考え出された(Viroのglueing method, in Springer Lecture Notes)
M-curvesのpatchworkingによる再構成
ruled surfaces上の概複素曲線の構成 (by Itenberg and Shustin)
ここでは,元々のViroのpatchworkingの方法の他に,
微分幾何的な張り合わせの議論を加えることで,それまで扱えなかった状況にpatchworkingを適用
特異超曲面の構成・・・・基本的なアイデアは同じ
2.5節 「Mikhalkinの対応定理」・・・patchworkingのアイデアを用いて証明された.
この定理の応用で特に重要なのは,Weschinger invariantの計算.
Welschinger invariant
・・・実曲線に適当に符号を付けて数えるもの.定義に用いたパラメータに関して不変になる.
その符号のつけ方は,トロピカル曲線のデータから読み取れる.
つまり,トロピカル幾何を用いて,Welschinger invariantの計算が可能になる.
第3章 Itenbergによる執筆 (この章の記述の方が初等的かつ詳細)
Mikhalkinの論文(2005)の主要部の抄録.
主な結果は,対応定理(定理3.6)とMikhalkinのアルゴリズム(定理3.7).
対応定理(定理3.6)
トーリック曲面上の代数曲線と,R^2の中のトロピカル曲線の間の正確な対応.
(トロピカル曲線は,一定の条件を満たすグラフ状の図形である.)
Mikhalkinのアルゴリズム(定理3.7)
R^2のトロピカル曲線の数を,対応するNewton多角形の中のlattice pathを数えること
によって与える.証明は初等的であり,2ページ弱.
上の2つの定理により,
トーリック曲面内の, (条件(ホモロジー類,種数,nodeの数など)を固定した)代数曲線の数が,
lattice path の勘定により計算できるので,
Gromov-Witten invariant の具体的計算(曲線の数の数え上げ)に興味を持つ研究者に関心持たれる.
3.7節は,Welschinger invariant のトロピカル幾何による計算.