いつも車で通る道沿いに

女神様の神社がある


ある時、拝殿の本坪鈴の前に

女神様のお姿があった


卑弥呼様のようなお姿に見える


白装束に、大ぶりの緑色の石で

できた首飾りを、幾重にも

身につけておられる


フッと目を細め

優しく、微笑みかけて下さる


久しぶりに、その道を通った時

道路拡張のため、道路側の木が

数本切られていた


いつも、その木々に咲く花を

見ていたので、まるで大好きな

家族を失ったかのように

悲しみが溢れ出す


胸の奥深くの、一番柔らかな部分を

誰かにグシャリと、握り潰された様

な痛みに、喉がキュッと締めあがり

息ができなくなる


その後、駐車場が新設され

ようやく、参拝に伺える様になった


心の安定を失いそうな時は

女神様の元へと向かった


やり場の無い、やるせない思いを

女神様は、静かに受けとめて下さる

肩に背負った、重い荷物を

そっと降ろして下さる


まるで、友人に、話を聞いて貰い

ながら、温かなお茶を飲んだ時の

ように、息ができるようになる


女神様の優しさに、心も身体も

ゆっくりとほどけていく


御光を、癒やしの御光を

与えて頂いたことに、心から

の感謝を申し上げ、帰路につく


ある日参拝を終え

参道を歩いていると、何処からか

ずっと見ていた、と、重々しい

年老いた、男性の声が聞こえた


目を上げると、物言いたげな

松の木がたっていた


何を見ていたのですか?

と、問いかけたが

何も答えてはくれない

大切なことは、もう伝えたと

黙り込む、長老のように


目の前に、着物姿の人々が

行き交う様子が見える

いつしか、洋服を着た人々へと

変化していく


着ている物も、姿形も違えども

同じ人々なのだとわかる


幾度生まれ変わろうとも、神々を

心から慕い、神々の元に集い

感謝を捧げ続けてきた

信仰深き人々なのだ


それは、目の前の松の木の記憶で

あり、全ての木々の記憶なのだ



学校近くの公園で、息子の帰りを

待っていた。木陰に車を停め

行き交う人々や、景色を

ぼんやりと眺めていた


何してるの?

小さな子供の声が、問いかけてくる


振り返っても、誰もいない


何処からか、好奇心に満ちた

視線を感じ、あたりを見まわすと

車の後ろの木の枝が、車の中を

覗き込むかのように、ゆっくりと

揺れていた


子供の学校が終わるのを待ってるの


そう答えると、ふーん、と

声にならない声が、聞こえてくる


息子の姿を、ひと目見ようと

興味津々の様子で、待ち構えている


楽しみすぎて、じっとできず

ソワソワしている子供のようで

可愛いなぁ、とほっこりする


息子が近づいてきた途端

スッとただの木に戻ってしまった


子供が小さい頃、よく山の上の

公園に、遊びに連れていった


お昼にしようと、木陰に近付くと

目の前の大木に、目を瞑った

大きな青龍が、巻き付いていた


あれ?見えるの?

とでも、言いたげな顔をして

こちらを見やり、スーと姿を消し

木と同化してしまった


姿は見えないけれど、気配はある


休んでたのにごめんね

と心の中で伝え、シートを敷いた



車を走らせていると、街路樹や

庭木達が、声にならない声で

話しかけてきてくれる


それは、ペットが、飼い主の膝に

前脚をかけ、何かを伝えようと

しているのに似ている


体調がすぐれない時は、ぐうーと

近づいてきて、大丈夫?と、心配

そうに、話しかけてくれる


元気な時は、嬉しそうに

笑いかけてくれる


木々も草花も、優しく私に笑いかけ

癒やしのエネルギーで、ふんわりと

私を包み込んでくれる


嬉しくて、嬉しくて、くすぐられ

笑い転げる、子供のように

声をあげて、笑ってしまう

そんな私と一緒に、木々も草花も

嬉しそうに、笑いさざめく


以前、ゆっくりと、彼らの話を

聞かせて貰えたことがあった



昔は皆んなと、お話しできたんだよ


今は、皆んな忙しいから、話しかけ

ても、気づいてもらえないんだ


だからいつも、お話し出来る人を

皆んなで探しているんだよ


貴女は、お話し出来るから嬉しい

ありがとう。動物達も、昆虫達も

鳥達も、魚達も、皆んな人間達と

お話ししていたんだよ


皆んな今でも、人間とお話しした

いんだよ。話しを聞いてくれて

本当にありがとう



ごめんね、ごめんね。私には

謝ることしかできなかった



登校中の子供達を、優しく見守り

安全に、学校に着けるよう、祈り

を送る街路樹達、庭木達


通勤途中の車にむかい

毎日頑張ってるね、凄いね、と

声をかける街路樹達、庭木達


それはまるで、マラソンランナー

にむかい、沿道から声援を送る

人々のようにも見える


お墓を抱くように、霊園の真ん中で

永遠の安らぎを祈り、癒やしを与え

続ける大樹


木陰でくつろぐ親子を、見守り

慈愛のエネルギーを降り注ぐ木々


それは、生まれたての赤子を

胸に抱き、永遠の幸福を祈り

続ける、慈母そのものの姿


彼らは、いつも私達に、惜しみなく

愛を与え続けてくれている


私達は、何も気づかずに、ただの

景色として、彼らを見ている


自分達の都合で、山の木々を

切り倒し、枝葉を切り落とす


どんなに、酷い扱いを受けても

彼らは静かに、人間達のすることを

全て受け入れ、与え続けている


かつてはあんなに

色々な話をしていたのに


木々達の知っている

始めの記憶を、宇宙の叡智を

たくさん教えて貰っていたのに


私達は、ガイアの一部として、一つ

のものとして、存在していたのに


私達も、自然そのものだったのに


私達は、彼らから遠く離れ

ガイアから離れ、いったい何処へ

行こうとしているのだろう


彼らが、全てこの世界からいなく

なると、私達は生きてはいけない


彼らが生み出す、酸素がなければ

私達は生きてはいけない


昆虫達がいなければ、豊かな木の実

を、果実を、味わうことはできない


私達は、動物達に、植物達に

魚達に、鳥達に、昆虫達に、日々

生命を、養われているというのに


ごめんなさい、ごめんなさい


彼らは、謝ることしかできない

私のことを、優しく抱いてくれる

許しきってくれる


どこまでも優しく温かい

お母さんのように、私をあやし

癒やしてくれる