私は、若い頃に起きた怪異現象の
せいで、いわゆる霊道が開いた状態
となった
本来ならば、宗教的修行や、肉体の
鍛錬を、長年に渡り積み上げてこそ
得られるものだろう
もしくは最初から、霊能力を授かり
生まれた方に備わるものだろう
しかし私の場合、自ら望んだわけ
ではなく、半ば強制的に開かれ
授かった霊能力だった
それは、まるで暴れ馬のようだった
コントロールの仕方が分からず
今迄当たり前に出来ていた
普通の生活が、難しくなっていった
霊道を開くには、守護霊の許可が
必要だという
私は、余りにも突然の事に
錯乱状態に陥ってしまい
守護霊の意図する行動や
心の状態になれず、混乱の中に
取り残されてしまった
私には、自分の中の闇と
対峙する事が、直視する事が
とてもではないが、出来なかった
あまつさえ
差し延べられた救いの手を
払いのけてしまった
だがそれこそが
守護天使であるアルフレッドの
意図であった
人は、自分が理解出来ない状況下に
置かれると、激しい恐怖心を抱く
そして、その状況を打開する為に
真実を探求しようとする
恐怖心がトリガーとなり、真実への
道標となるのだ
ある日、夫から松果体の話を聞いた
私も、松果体を活性化させたら
あの不可思議な出来事の、意味が
分かるのではないか
彼の言った事が本当ならば
過去の私が
彼を殺めたというのならば
私は、今の私の目で
それを確認したかった
私の耳で、その声を聴きたかった
だからずっと、内観、反省、瞑想に
取り組んできた
精神の安定を得、低級霊による
霊的現象からは、逃れられたが
自分の心の中から湧き上がる
行き場のない罪悪感からは
逃れる事は叶わなかった
ならば、違う方向から試そうと
ワイス博士の本を読み込み
前世療法CDブックを購入して
真剣に取り組んできた
過去の自分が、一人また一人と
私の前に現れ、その思いの丈を
ぶつけてくれた。その哀しみを
苦しさを、伝えてくれた
けれど、一番会いたかった彼が
姿を現す事はなかった
私はただ、真実を知りたかった
幻で構わないから、彼の姿を
この目で見、直接彼に詫びたかった
たとえ、今ここにいる私が、成した
事ではなくても、確かに過去の私が
魂の兄弟が成した、罪なのだから
前世の私は、加害者であり
また、被害者でもあった
前世療法で会えるのは
いつも私自身だった
私しかいなかったのだ
松果体と第三の眼の機能が、正しく
可動すれば、今世のブループリント
を確認したり、アカシックレコード
に繋がって、全てを明らかに出来る
かもしれない。だから、取り敢えず
やってみることにした
夫に借りた本の作者は、シリウス
出身の方だった
作中で語られる、シリウスという
響きが、とても心地良く、また
不思議な懐かしさに、心が安らいだ
自分も、シリウス人だったのかも
しれない
そう思うだけで、何故か胸の奥が
ふんわりと温かくなった
この頃は、自分が何者なのかも
何を成そうとしているのかも
まだ、わからずにいた
スターシードという言葉を
初めて知った頃だった
スターシードという言葉の響きに
淡い憧れを抱いていた
もし自分もそうなら、どんなに
嬉しいかと、思っていた
何冊か、松果体の本を購入し、その
中の一冊に、心が引き付けられた
取り敢えず、三週間やってみる事に
決めた
ある夜、もう寝ようと目を閉じると
何故か眩しくて、目を開けた
目を開けると、闇が広がっている
目を閉じると、眩しくて堪らない
何かがおかしい、何か有り得ない
事が起きている
どうすればいいのか、分からない
まま、気付けば眠っていた
額の真ん中に、懐中電灯を当てられ
ている様な、強烈な白い光だった
また別の日には、眠ろうと目を閉じ
ると、カラー写真の様な映像が
目の裏に浮かぶ様になった
フクロウや、孔雀、犬、猫など
その日によって、見える物は違った
目を閉じていても、開けていても
見えるので、ただ静かに眺めていた
見える動物や鳥達に、何の意味が
あるのかは、全くわからなかった
あの日、いつものように、松果体
活性化の、ルーティンに取り組んで
いた
突然フラッシュバックが起きた
白昼夢のように、断片的な映像が
現れ、流れ去って行く
それは、懐かしいプレアデス
この星に来る前の記憶
滅びゆく、我が愛してやまない
プレアデスの最後の姿
必死に声を押し殺し、頭を抱え
部屋の中を転げまわった
自分が、自分でなくなりそうな
身体も心も、砕け散りそうな程の
経験したことのない衝動
絶え間なく襲う、かつて経験した
ことのない、激しいエネルギーの
うねりに、身体も心も耐え切れず
声を噛み殺し、のたうち回った
何故、思い出そうなどと、したのか
何故そのまま、静かにこの生命を
終えようとしなかったのか
心を引き裂く、激しい後悔と
身体を貫く、激しいエネルギーに
とても耐え切れず、ただ部屋の中を
転げ回り、のたうち回り続けていた
どれだけの間、そうしていたのか
残されたのは、激しい虚脱感と
底しれぬ失望だけだった
そして、初めて知った
新しい生命と、新しい肉体を
与えられた時、全ての記憶を失う
のは、途轍もない御慈悲なのだと
神の与え給えし御慈悲なのだと
過去のカルマもあるだろう
知らねばならぬ、事柄もあるだろう
けれど、ゆっくりでいいのだ
そうでないと、自分自身が壊れて
しまう
思い出さないほうが、幸せなのだ
思い出そうなどと、何故思って
しまったのだろう
激しい後悔と、蘇る怒り、哀しみに
身も心も引き裂かれそうだ
知る必要などなかったというのに
なんと私は、愚かだったのだろう
自ら地獄へ赴くとは
その日から、時と場所を選ばず
フラッシュバックが起き始めた
前世の記憶と、宇宙の記憶
今世の記憶と、パラレルの記憶
自分が、いったい何処にいるのか
誰の記憶を生きているのか
誰の人生を生きているのか
私は私の人生を見失い彷徨っていた
過去の私は今の私で
今の私は、過去の私であるならば
私はいったい誰なのか
足元が崩れていくような感覚が
崖の下を、覗きこんでいるような
感覚が、身体中を駆け巡る
身体中の細胞が、悲鳴を上げる
身体中の細胞が、口々に話し始める
全身を、虫酸が走り、身体が震える
足を掴み、地獄の底へと引きずり
込もうとする恐怖心から
私を守ろうと、表面意識が、脳が
絶え間なく湧き上がる記憶を
映像を、感覚を、感触を、息吹を
封じこめようとし始めた
絶え間なく湧き上がる感覚を
遮断し始めた
それは子供の頃から、無意識の私が
私を守る為に、まるで息をするかの
如く、成してきたことだった
感情は、記憶は、いつだって
私を奈落の底へと、突き落とすから