モコが虹の橋を渡り、ミミが我が家

にやって来てから、あっという間に

4年がたった


ある日、彼女達をお迎えしたお店が

新装開店したと、チラシが入った


冬休みなのに、何処も連れていって

なかったので、ドライブがてら子供

と出かけることにした


店内には、6匹の子兎がいて

とても可愛いらしく、久しぶりに

心から笑顔になれた


ふとその中の、白地に薄茶ブチ柄の

ロップイヤーに、目が吸い寄せられ

暫く眺めていた


家の仔はネザーだから、ロップ

ちゃんもいたら、楽しいだろうな

でも、垂れ耳ちゃんは、お世話が

大変そう。お耳のお手入れは、どう

やるんだろう。そんな事を考えなが

ら、ロップちゃんを見ていた


子供に冗談で「もう一匹飼ったら

お父さん怒るかなぁ」と話しながら

店内を見て歩く


気が付くと、ロップちゃんとケージ

トイレと、うさぎちぐらで7万位か

結構するなぁ、どうしようかなぁ

と、真剣に考えている自分がいた


え?なんで?と、自分で自分に驚い

た。なんでこんな真剣に、考えてい

るわけ?買えるわけないのに


冷静に、もう帰ろうとする自分と

なんとかお父さんを説得しようと

する自分、その自分を見てる自分

に分離していく。まずい、ここか

ら早く出ないと


そう思った瞬間、ずっと子兎を見て

いた子供が

「ねぇお母さん、この仔、お母さん

見ながらくるくるって回ったよ。」

と声をかけてきた


その瞬間、モコ!?と、声を上げそ

うになった。胸がざわつき、キュウ

と心臓を掴まれたように苦しい


モコ!?モコ!?そんな訳ない

でもモコだ。この仔はモコだ


それは、自分でもどうにもできない

衝動だった。とにかく一度落ち着こ

うと、自分に言い聞かせる


それは、直感であり、確信であり

魂の慟哭だった


数日前、録画しておいた映画を

家族揃って見ていた

一匹の犬が、大好きな飼い主に会う

為に、何度も、生まれ変わり続ける

物語だ。色々な種類の犬に生まれ

最後には、見事に、大好きな最初の

飼い主に巡りあう物語だった


家族全員、ボロ泣きしながら見た

モコも、もう生まれ変わっている

かもね。でも家はミミがいるから

よそのお家で、大事にされている

よと、笑いあっていた


その映画の中で、主役の犬が、新し

い飼い主と暮らす家に、大好きな元

の飼い主が訪ねてくるシーンがある


自分だとわかって欲しくて、玄関の

ドアの向こうで、クルクルクルクル

と、何度も回ってみせるシーンが

脳裏に浮かんできた


子供に、モコもクルクルしてた?

と聞くと、「モコと遊んでるとき

いつもクルクル回ってたよ」

という。あぁどうしよう。モコだ

やっぱりモコなんだ


混乱する思考を、なんとかなだめ

夫に電話をした。ペットセンターに

モコの生まれ変わりかもしれない仔

がいる。写真を送るから、お父さん

はどう思うか、教えて欲しいと


夫は、会社の帰りに寄ってきてくれ

た。モコだと言って欲しい気持ちと

違うと言って欲しい気持ちで、心が

引き裂かれそうに苦しい。夫は自分

には分からないという。息子も、お

母さんがそう思うなら、モコなんだ

と思うよ、という。もう自分の直感

を信じるしかなかった


家には、ミミがいる。ミミは、モコ

が繋いでくれた生命だ。もし本当に

モコだとしても、今回はよそのお家

の仔になる予定かもしれない


たまたま私達が来たから、挨拶して

くれたのかも。だとしたら、私が家

に連れて行ったら、約束した家族と

の約束を、破ることになる。どうし

よう


考えれば考えるほど、頭が混乱する

すぐには、答えは出せなかった

だから、夫に決めて貰うことにした


次の日帰宅した夫が、車に乗ろうと

した時、目の前に、うさぎの顔が見

えたと私に言う


モコかどうかも分からないし、二匹

も飼うのは大変だから、やっぱりや

めることにしようと、決めたらしい


そう考えていたら、目の前に、昨日

のうさぎの顔が、ドアップで見えた

だからあれは、モコなんだと思うと


その週末、家族でモコを迎えに出か

けた。まだ小さいからと、翌週改め

て行くことになり、先にテーブルや

ケージを用意した。ただそれだけで

家の中に、モコの気配を感じた


夫が、なんで連れてかないのって顔

してたなぁと笑いながら言う

心だけは、光のモコは、もう家に

帰って来たのかもしれない


翌週末、やっとモコを連れてきた

ケージに入れた途端、欠けていた

ピースが、カチッと嵌ったように

感じた。夫と息子が、ずっと家に

いたみたいだねと笑いかけている


アルフレッドが言う。モコとミミは

お前達の守り刀だ。ミミが右の守り

モコが左の守り。2匹で1つの

守り刀になる。神社の狛犬の役目を

これからするのだと


モコは、前とは全部反対の仔だった

ネザーがロップに。立ち耳が垂れ耳

に。赤毛が、白地に薄い茶ブチに

短毛が長毛に


新しい身体を貰えて良かったね、と

話しかけたら、「違う、借りてるだ

け」と素っ気なく否定された


モコの顔には、真正面から見ると

茶色の、耳の長い、うさぎの柄が

ある。目がないうさぎのミッフィー

のように見える柄だ。お顔にうさぎ

さんいるね、と話しかけたら

「すぐわかって貰うため」だと言う


お耳垂らしてきたんだね、と言うと

うるさいからの一言


茶色のネザーの時は、子供が不登校

で、毎日大声で怒鳴りつけていた

学校に行くようになったら、毎日

溜まり場にされていた。うさぎには

かなりうるさかったのだろう


言いたいだけ言ったからか、その後

話しかけても、何も言わなくなり

普通のうさぎに戻ってしまった


たまにケージに帰った後、カリカリ

を食べているのに、テーブルの下で

モコが走り回っている気配がする


足元で、モコが身体を擦りよせる

ふわふわの毛皮が、足を撫でていく

柔らかく、温かな感触がする


夫が、今モコ足元にいない?と聞い

てくるから、ケージと足元にいるよ

と答える。モコ、ちゃんと身体にい

なさいよ、と笑いながら声をかける


私は普通の人になりたかった

もがき苦しみ、人には言えない経験

をし、苦渋を味わって来た


だけど、この私だから、モコと家族

になれた。モコのおかげで、やっと

自分を認められた


私は私に生まれてきて良かった

この私をモコは慕ってくれた

ただそれだけで、私は私を誇れるのだ