目の前に、美しいエーゲブルーの海
が見える。静かで、柔らかな波音が
たゆたいながら、風に乗り、優しく
耳元を通り過ぎていく
美しい碧の、グラデーションが
果てなく広がるエーゲブルーの海
風に吹かれ、ゆっくりと流れゆく
小さな白い雲
見渡す限り広がる、瑞々しい草原
吹き抜ける風に、心地良さげに身を
まかせ、踊るように咲き乱れる
様々な、色とりどりの花達
そんな美しい風景の中、背丈の高い
草に隠れ、膝を抱え座り込む、まだ
少年のアルフレッドが見える
突然、視点が変わった
私は、アルフレッドになっていた
アルフレッドになった私は、ただ
見ていた。いつも変わることなく
そこにあるものを
海を、空を、雲を。そして、決して
近づいてはならないと、幼い頃から
言われてきた、崖縁に立ち、こちら
を優しく見つめる、守護天使の姿を
私は彼の、守護天使だった
いつも見ていた。いつでも、何処に
いても、彼の側に立ち、彼を見ていた
いつ如何なる時も、一瞬たりとも
彼から心を、離すことはなかった
彼もまた、私を見ていた。守護天使
の私を。私達は、ただ微笑みあい
互いの瞳を見つめあった
あの頃私が描いていたのは
彼の瞳に映る、私の姿だった
私しかいない。他には誰もいない
私は彼で、彼は私だった
あの頃私は、何も知らなかった
何1つ、思い出す事などなかった
思い出すすべなど、何もなかった
けれど私の魂は、忘れてなどいな
かった。ただ静かに、待ち続けた
時が満ち、再び彼に会える日を
全てを思い出す時を
失ったものなど、何もなかったと
笑いあえる日を
私達自身を、取り戻す日を
膝近くまである、長く、豊かな
栗色の、まっすぐな髪
大きな長方形の、白い布を身体に
巻き付け、ドレープを創り、フィブラ
(ブローチ)を使い肩で止めている
上腕に、緩く弛ませた布を
ピンで数カ所止め、袖のようにして
腰には、紐を結んでいる
イオニア式キトンと呼ばれる
衣装を、身に纏っている
足元は、キトンに隠れているが
獣の皮で造られた、編み上げ
サンダルを履いている
背丈の高い草が、一面に生い茂る
崖縁に立ち、アルカイックスマイル
を浮かべる女性の姿
子供の私は、飽きる事なく、そんな
絵ばかりを描いていた
その絵を描いている時が
一番幸せだったから
それは、アルフレッドの守護天使
である、私の姿だった
夫に話している間、目の前を流れ
ゆく情景に、涙が溢れそうになる
気づかれないよう横を向き、そっと
涙を拭い、話題を変えた
沢山の私が、今此処にいる
人として、生きている私
守護天使としての私
アルフレッドと呼ばれる私
悪魔と呼ばれる私
天使と呼ばれる私
様々な宇宙人としての私
様々な宇宙として存在する私
龍神として、ガイアと共にある私
名も無き人生を、必死に生き抜いた
星の数ほどある私達
そんな私達を、優しく見守る私
美しい生命の輝きを、幾重にも描き
ながら、始源の愛の神の、願う愛と
して生きたいと、祈り続ける私達
私しかいない。私しかいなかった
多宝塔のような、生命の輝きの中
私は生き続ける。祈り続ける
美しい生命の輝きを
美しいグラデーションを描きながら
あの先の見えない闇の中で、私は
アルフレッドの、思い出の中の私
を、ただひたむきに、描き続けて
いたのだった