今回は、刑法の不法原因給付に関連した論点について考える。

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次の二つの事例を考えてみよう。
①甲は麻薬をもっていないのに、麻薬中毒者の乙に対して麻薬をもっているかのように装ってこの売却代金をだまし取った。甲の欺罔行為に詐欺罪(刑法246条1項)が成立するか。
②乙は公務員であるAに対して賄賂を供与しようと考え、甲に対してAへのその贈賄の依頼をすることにした。そこで、乙はその贈賄のための資金を甲に預けた。甲は資金をもらったらとたんに遊びに費消したくなりその預かった贈賄のための資金を使って豪遊した。甲の資金費消行為に横領罪(刑法252条1項)が成立するか。
この二つの事例において、民事上、①麻薬の売買は公序良俗(民法90条)違反として無効であり、また、②贈賄のための寄託も同様に無効である。したがって、90条違反無効になった場合に、「その不法な原因のために給付をした者」である乙が不当利得返還請求として①売買代金や②贈賄資金の返還を甲に請求することはできない。それにもかかわらず、甲は刑法上の罪責を問われるのかというのがここでの問題である。
ここで、②不法原因給付と横領の問題においては、民法上の返還請求権がない以上、預かっている資金は「他人の物」(252条1項)にあたらないとして同罪は不成立とするかが問題となる。まず、判例のように民事上返還請求権があるか否かに関わらず刑法上は横領罪が成立するという見解がある。他方、民事判例上、不法原因給付として返還請求が否定されることの反射的効果として所有権が相手方に移転するとの考え方が確立している以上、刑法上も「他人の物」ではない、として無罪とすべきとの見解もある。さらに、不法原因寄託と不法原因給付とを区別して前者は民法708条が適用されないから横領罪が成立し後者は708条の適用により同罪は不成立であるとする見解がある。最後の見解は、民事判例との整合性を保ちつつ刑法上の妥当な結論を導こうとするものとして優れた見解であると私は考えている。
これに対して、①の不法原因給付と詐欺においては、上記の議論をするまでもなく、詐欺罪の成立を肯定できる。それはなぜか。ここでのポイントは、横領罪と詐欺罪の犯罪の構造の違いである。すなわち、横領罪は他人から預かった物を返さない点が犯罪とされ、他方、詐欺罪は欺罔により他人の物を交付させる点が犯罪とされるのである。横領罪については、返さない点が犯罪とされる以上、民事上は不法原因給付物の返還請求権が相手にはないとされていることが問題となるのである。確立した民事判例を無視して刑法上はやはり犯罪ですよと言い放つこと(古い判例の見解をそのまま維持すること)が許されるのかという問題にぶち当たる。他方、詐欺罪においては交付させる段階で犯罪なのかどうかが問題となるのであって、返さないことを犯罪と言っているのではない。そのため、詐欺罪の場合は、欺罔の結果交付された物が不法原因給付であろうと、それを交付させることが犯罪ではないという話は出てこないのである。このような違いがあって、両論点では論じ方に違いが出てくる。詐欺罪の方は、交付された物が結果として不法原因給付だとしても、欺罔がなされる前は不法性を有しない以上、詐欺罪の成立を妨げないといえる。①の事例でいえば、麻薬を購入しようとして金銭を支払った場合、その金銭の支払いは不法な原因に基づいて給付したということになるから返還請求が否定される。けれども、そもそも詐欺がなくて被害者が財布の中に持っているだけであればその金銭に不法性はないからこの金銭を刑法が保護してもおかしくはないのである。
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①甲は麻薬をもっていないのに、麻薬中毒者の乙に対して麻薬をもっているかのように装ってこの売却代金をだまし取った。甲の欺罔行為に詐欺罪(刑法246条1項)が成立するか。
②乙は公務員であるAに対して賄賂を供与しようと考え、甲に対してAへのその贈賄の依頼をすることにした。そこで、乙はその贈賄のための資金を甲に預けた。甲は資金をもらったらとたんに遊びに費消したくなりその預かった贈賄のための資金を使って豪遊した。甲の資金費消行為に横領罪(刑法252条1項)が成立するか。
この二つの事例において、民事上、①麻薬の売買は公序良俗(民法90条)違反として無効であり、また、②贈賄のための寄託も同様に無効である。したがって、90条違反無効になった場合に、「その不法な原因のために給付をした者」である乙が不当利得返還請求として①売買代金や②贈賄資金の返還を甲に請求することはできない。それにもかかわらず、甲は刑法上の罪責を問われるのかというのがここでの問題である。
ここで、②不法原因給付と横領の問題においては、民法上の返還請求権がない以上、預かっている資金は「他人の物」(252条1項)にあたらないとして同罪は不成立とするかが問題となる。まず、判例のように民事上返還請求権があるか否かに関わらず刑法上は横領罪が成立するという見解がある。他方、民事判例上、不法原因給付として返還請求が否定されることの反射的効果として所有権が相手方に移転するとの考え方が確立している以上、刑法上も「他人の物」ではない、として無罪とすべきとの見解もある。さらに、不法原因寄託と不法原因給付とを区別して前者は民法708条が適用されないから横領罪が成立し後者は708条の適用により同罪は不成立であるとする見解がある。最後の見解は、民事判例との整合性を保ちつつ刑法上の妥当な結論を導こうとするものとして優れた見解であると私は考えている。
これに対して、①の不法原因給付と詐欺においては、上記の議論をするまでもなく、詐欺罪の成立を肯定できる。それはなぜか。ここでのポイントは、横領罪と詐欺罪の犯罪の構造の違いである。すなわち、横領罪は他人から預かった物を返さない点が犯罪とされ、他方、詐欺罪は欺罔により他人の物を交付させる点が犯罪とされるのである。横領罪については、返さない点が犯罪とされる以上、民事上は不法原因給付物の返還請求権が相手にはないとされていることが問題となるのである。確立した民事判例を無視して刑法上はやはり犯罪ですよと言い放つこと(古い判例の見解をそのまま維持すること)が許されるのかという問題にぶち当たる。他方、詐欺罪においては交付させる段階で犯罪なのかどうかが問題となるのであって、返さないことを犯罪と言っているのではない。そのため、詐欺罪の場合は、欺罔の結果交付された物が不法原因給付であろうと、それを交付させることが犯罪ではないという話は出てこないのである。このような違いがあって、両論点では論じ方に違いが出てくる。詐欺罪の方は、交付された物が結果として不法原因給付だとしても、欺罔がなされる前は不法性を有しない以上、詐欺罪の成立を妨げないといえる。①の事例でいえば、麻薬を購入しようとして金銭を支払った場合、その金銭の支払いは不法な原因に基づいて給付したということになるから返還請求が否定される。けれども、そもそも詐欺がなくて被害者が財布の中に持っているだけであればその金銭に不法性はないからこの金銭を刑法が保護してもおかしくはないのである。
以上
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