「 とっても可愛い男の子でしょ 」
イチの母親は、うっとりとした瞳で赤ん坊のイチを見つめながら言った。
「 ふん 」
評判の良くない占い師は、馬鹿にしたように鼻をならした。
イチの母親はそれに気づきもしなかった。
幸せそうに顔をあげ占い師に、また聞いた。
「 この子の一生は幸せですか? 」
イチの父親が、慌てて言った。
「 占い中は話しかけてはいけない決まりだよ 」
「 そうでしたっけ 」
イチの母親は、おっとりとした仕草で首をかしげた。
邪魔をされた占い師は苛立ったように、イチの頭の上で占い棒を激しく振りはじめた。
ぐっすり眠っていたイチが目を覚まし、大声で泣きだした。
その赤いくしゃくしゃの顔を見て、占い師はやっと満足そうに頷くと、占い棒を引っ込めた。
「 なるほどねえ 」
占いは終わったらしい。
イチの母親は赤ん坊を抱き上げて、あやし始めた。
「 それでどうなんですか? 」
イチの父親が、不安そうに聞いた。
占い師はもったいぶった口調で言った。
「 とても良い印を感じたよ。ああ、とても良い印だ。
この子は、一生食べるものに困らないだろう 」
それは何より嬉しい言葉だった。
東の国は豊かな国ではなく、イチの両親も小さな畑で少しばかりの作物を育て、
なんとか暮らしを立てていた。
「 良かった。この子はきっと幸せになれますね 」
イチの母親は大喜びで、赤ん坊に顔をすりよせた。
父親は喜びながらも、戸惑うように占い師を見た。
この占い師は不吉な予言しかしないので、評判が悪かったのだ。
今回も酷い事を言われるに違いないと覚悟していたのに、
こんなに良い事を言われるなんて思ってもいなかった。
しかし、まだ続きがあった。
占い師は一度引っ込めた占い棒を大きく振ると、ぴたりと赤ん坊の額に当て、
「 それから 」
と、鋭い声で言ったのだ。
「 それから? 」
イチの父親は不安そうに占い師を見た。
占い師は皮肉な笑みを浮かべながら続けた。
「 それからこの子の周りでは、一生奇妙な事が起こり続けるだろうよ。
この子の額にその印が出ているよ。
とても強い印だ 」
イチを抱いた母親は不思議そうに聞いた。
「 奇妙な事ってどんな事ですか? 」
占い師はうっすらと笑いを浮かべながら、占い棒を引っ込めた。
「 そんな事までは分からないよ。奇妙な事は奇妙な事さ。
それがずっと続くんだよ 」
実際、その通りになった。