少し話を戻そう。

大吉くんが行き倒れていた日の夜から隣で寝ることにした。
2階の自室に居ては何かあっても気づかないし、トイレをしても濡れたままでは可哀そうだ。
昔キャンプインストラクターをしていたので、幸いにも寝袋は捨てずに持っていた。

さっそく大吉くんの横に寝袋を敷いた。
右を向けば目の前にちょうど顔が見える。
私は安心して眠りについた。

深夜、苦しそうな鳴き声で目が覚めた。
大吉くんが不自由な身体をくねらせて何やら訴えている。
思い当たるふしがあった。
もうかなりの時間オシッコをしていなかったのだ。
寝たきりのままするのに抵抗があるのかもしれないと思った。

「あ~、どうすればいいんだ。」

かなりの時間、お腹を押したり念を込めてさすってみたが変化はない。
そこで私は閃いた。

「オシッコする姿勢にしてみよう!」

大吉くんの身体を起こし、半ば強引に腹ばいの状態にしてみた。
しばらくすると穏やかな表情になり大人しくなった。
が、オシッコは結局しなかった。
ひとまず苦しそうな様子ではなくなったので、私は再び眠りについた。

遠い意識の中で、苦しんでいる鳴き声を断片的に聞いたような気がした。
まだ完全には覚醒していない。

「キャーン!!」

さすがに今回は覚醒した。
すると隣の部屋で寝ていた母が、「カタッ。」とふすまを閉める音がした。
大吉くんの異変に気付き、ふすまを少し開けて様子を伺っていたらしい。
同時に父に話しかけている。

「大吉くんが死んだよ。最期にみんなに挨拶して逝ったよ。」

私は血の気が引いた。
しばしの静寂。
物音ひとつしない。
覚悟を決めて右を向き、大吉くんの安否を確認した。

そこにはオシッコの海に浮かぶ大吉くんがいた。
お腹を静かに上下させ、猛烈な尿意から解放されて死んだように眠っていた。

「母さん、生きてるよ。。」


父、母ともに超高齢者かつ要支援の認定を受けている。
認知症ではないがけっこう怪しい。
私はご存じ筋金入りの躁うつ病患者。
そして頼みの綱の超高齢犬までが寝たきりになった。

健康な人が一人もいない4人家族。(笑)
これからどうなってしまうのやら。



大吉くんお手入れセット(トイレシーツ大・小、チリ紙、ボディータオル、ドライヤー、ブラシ、ウエットティッシュ)


寝たきりになる数日前の大吉くん(すでに後ろ脚がヨタヨタしていました)