子どもがなぜそうするのか?


私の仕事は、以前は「子どもの行動や心の動きを、ご家族に開設すること」が中心でした。

そうすると、「どうして子どものことがそんなによくわかるのですか?」とよくお母様方から聞かれます。


「子どもが何かをすることの背景に、子どもの心の動きがあり、『どうしてそうしようとするのか、なぜ、そうするのか?』を考えるからです」とお答えしています。


子どもが何かの行動をするためには、子どもの心の動きが必ずあります。

どうして、この子はこうしたのだろうか、ということを、まず考えるのです。


観察しているわけではありません。

どちらかと言えば、共感しているに近いかもしれません。

それは、大人の方に対しても同じです。

お母様、お父様が面談にいらっしゃったときも、こちらから話すことは、しっかりとお話しするのですが、なぜ、今日、面談に来てくださったのだろう、何をお考えになっていて、何を求めて来られているのだろう、といつも考えるのです。


そのことを考えていた時に、ものすごく影響受けた漫画があることを思い出しました。

『家栽の人』という漫画です。1988年から小学館の『ビッグコミックオリジナル』という漫画雑誌に連載されていたものです。

今でも小学館eコミックストアで購入して読めるはずです。

ドラマにもなったので、ご存じの方もいらっしゃると思います。

この漫画の主人公は、家庭裁判所裁判官の桑田義雄で、この裁判官が少年審判や家事審判を解決していくお話です。

この主人公の桑田判事が、裁判所で裁判や調停になる人たちが、「なぜそうするのか」「そしてどうすることが、この人に必要なのか」ということを考えた判決を出していくのです。

私は、読み始めて、すぐに心惹かれて、ビッグコミックオリジナルの月2回の発売を心待ちにしていたことを、今でも覚えています。

どうしたら、こうして人に心を開いてもらい、その人のことを思い、こういう判断ができるのか、ということをずっと考えながら、読んでいたことを思い出します。

心理学やカウンセリングの本も、勉強になりました。

しかし、これほど人の心と行動を考えさせられたものは、他にないと言ってもいいかもしれません。


私にとっては、それくらい考えさせられる漫画でした。

私には『家栽の人』が、今でも、人の心を考えるために、役に立っています。


子どもがなぜそうするのか、そこには、必ず理由があります。

それは、大人の価値観で考えていてはわからないことかもしれません。

また、大人、特にご家族が、自分の思いを持ちながら、なぜそうしてくれないのか、自分の考える行動をとってくれないのか、と考えたところで、それでは、「子どもがなぜそうしているのか」はわからないのです。

『家栽の人』で一番、学ばせていただいたことは、主人公の桑田判事が、いつも自分の心を穏やかに保っていることかもしれません。

先入観を持たず、心穏やかに、子ども達が、なぜそうしたのかを考えることが大切だと、私はこの漫画から学んだと思っています。

お母様、お父様が、自分の思いを横に置いて、先入観を持たず、心穏やかに、子ども達のことを見てあげてください。

そうして、なぜそうしているのかを考えてみてください。

そこに気づきがあり、そのご家族の気づきが、子ども達をより成長させていくものになると、私は思います。


ちなみに、『家栽の人』の「栽」の字は裁判所の「裁」の字ではありません。

そのことにも意味があるのですが、それは知りたい方は、ぜひ、『家栽の人』を読んでみてください。