「Let It Be」と「Let It Go」


「Let It Be」と「Let It Go」という2つの有名な歌を知らない人は少ないと思います。

「Let It Be」は1970年3月に発売されたビートルズの曲です。

「Let It Go」は2013年のディズニーのアニメ映画『アナと雪の女王』に使用された楽曲ですから、ひょっとしたらこちらの方がご存じの方が多いかもしれません。


「Let It Be」がレコーディングされた前年の1968年、ビートルズが分裂の危機にありました。

そのことをとても悲観していたポール・マッカートニーでしたが、ある夜、マッカートニーが14歳の頃にガンで亡くなられたお母様が夢枕に現れ、「あるがままを、あるがままに、全てを受け容れるのです」と囁いたというのです。

マッカートニーが「母に再会できたのは本当によかった。夢で祝福された気分だった。だから僕は母の囁きを元に『レット・イット・ビー』を書いたんだ」と語ったことは、有名な話です。

マッカートニーへの亡き母からの言葉が「Let it be」だったのです。

「あるがままに」とおっしゃったというのです。

そのことで、マッカートニーは、ビートルズが解散することも、歌の通り、あるがままに受け入れていったのかもしれません。



「Let It Go」は『アナと雪の女王』で有名になりました。

日本語バージョンの歌としては「ありのまま」と歌われていますが、英語の歌詞でLet it goと歌われているのを、意訳して歌詞にしてあるのだと思います。

もともとLet it goだと「感情を手放す」感じの意味です。

『アナと雪の女王』の中で、エルサは部屋に閉じこもって生きてきました。

本当の自分を隠して、良い子、良い王女を演じていたわけです。

要するに「感情を抑えて生きてきたのを、感情を開放し、執着を手放し、自分らしく生きる」という意味で「Let It Go」と歌われているのだと思います。


この「Let It Be」と「Let It Go」は、もちろん楽曲としても素晴らしいです。

「Let It Be」はビートルズの曲として有名ですし、楽曲として素晴らしい曲です。

これについては、多くを語る必要などないことは、良くお分かりだと思います。


「Let It Go」は映画も日本語バージョンの歌も素晴らしいと思います。

大ヒットしたことは、まだ、記憶に新しいところではないでしょうか。

 

しかし、どちらの曲も、ヒットしたのは、それだけではないと私は思っています。


日本も以前は今ほど、競争が激しい社会ではなかったと思います。

もちろん、格差はありましたし、競争もありました。

しかし、良いか悪いかということではなく、大東亜戦争前と後では、大きく価値観も変わりました。

第一次ベビーブームで高校入試、大学入試が激戦になり、人口が増え、子どもの数が増えるほど、その競争はより激しくなりました。

また、高度経済成長時には、日本では多くの企業で終身雇用制をとり、就職できれば、よほどのことがない限り転職することも少なく、定年まで安定して生活できていました。

ところがバブル崩壊後、グローバリズムにより、世界の中で勝てなければ企業として生き残っていけないと、大手企業はアメリカ的な競争原理を取り入れ、社会人となっても激しい競争に勝ち残っていかなければ、肩書がつかず、収入も増えない仕組みになっていきました。

今の若者は、中学受験から大学受験、就職試験まで常に競争にさらされ、社会人になっても、いつも能力主義で成果を問われ、競争にさらされているのが現実です。

そのため、若い方が、仕事、仕事で生きていくのではなく、自分の趣味の世界、自分が楽しめる世界を大事にしたいと、出世よりも、自分の時間を大事にするようにもなってきています。


「Let It Be」が世に出て、ビートルズが解散した1970年(昭和45年)年あたりから後に、今のお父様、お母様が生まれた、そんなころです。

このころ、高度経済成長の歪のように、公害問題がものすごく社会問題化していった年です。


「Let It Go」が日本で大ヒットした2014年(平成26年)は、お亡くなりになった安倍晋三元総理が長く続く平成不況にもかかわらず、消費税を10%に上げたために、アベノミクスの効果も薄れ、消費が一気に冷え込み、デフレが加速してしまった年でした。

どちらの時代も、競争、競争と自分の本音を横に置いて、社会の中で懸命に競争に勝たなければいけなかったことに、大きな翳りが出てきていた時代だったと言えると、私は思っています。


だからこそ、どこかで、あるがままに(Let It Be)、ありのままの(Let It Go)自分で生きていきたいと、歌う歌声が、人々の心に響いていたのではないでしょうか。

自分は自分のままでいていい、「自己存在感」とでもいうべきことを、歌っているのではないかとさえ思います。

お母様が笑顔でいる、子どもが笑顔になる、そのために、自分を大切にして生きていく、ということが、今できなくなっている、それを、何度もお伝えしてきました。


競争に勝った時の笑顔は、心から喜ぶ笑顔とばかり言えるものではありません。

競争がダメだと言っているのではありません。

競争は必ずあります。

しかし、自分の外側の競争という出来事に振り回されるのではなく、自分の心のあるがままに、他人のために我慢するのではなく、自分の心のありのままに、生きていくことができれば、お母様もお子さんも笑顔になることができると、私は思っています。


そのための方法を、これからも一緒に学んでいきたいと思っています。