いじめに耐え抜いた女の子〜その9〜
入学金は免除、授業料は半額という特待生で合格した彼女は、入学を辞退してしまいました。
高校にはお父様と私でお詫びに行きました。
担当の副校長先生には、話せる範囲で事情を私からご説明しました。
副校長先生は次のようにおっしゃってくださったのです。
「このような中で通いたい学校として、本校を選んでいただけただけでも、たいへんありがたいことです。まだ精神的にもかなりの負担があり、当日の状況からも、とても受験ができる状態ではなかったにも関わらず、これだけ優秀な成績で合格されたのは驚きでしかありません。
特に午後からの科目は、お聞きする限り、点数が全くなくてもおかしくないところを、たいへん高い点数を取られていることからも、たいへんな努力をされた方なのだと思います。
このような素晴らしいお子さんを、本校としては、精一杯、応援し、安心して通っていただけるようにサポートしたいと思います。しかし、ご本人がまだ通える状況ではないと思われることも十分に理解できます。たいへん残念ではありますが、これからのことを応援しております。もし編入をご希望になられたら、いつでも遠慮なくご連絡ください。」
お父様は、
「勝手なことをしてしまい、お詫びのしようもありません。そんな中でこれほどまでにあたたかいお言葉をいただけたことに感謝申し上げます。必ずこのことは娘に伝えます。」
とおっしゃり深々と頭を下げていらっしゃいました。
入試から2週間くらい経ってから、フリースクールに顔を出してくれました。
その時、彼女は、いじめられた学校の制服を見ただけで、一気に不安になったことで、彼女は、まだまだ自分は本当に元気にはなっていなかったと自覚したと、言っていました。
彼女は、完全に通信制高校も含め、高校への進学をあきらめました。
まだ、通える状態ではないと。
そこで、彼女は、本格的にカウンセリングを受けることにして、フリースクールでも積極的に行事に参加し、人と接することをするようになりました。
自分の精神的な状態を少しでも良くする、いじめられたことに負けない強い自分になりたいと、様々なことに取り組むようになりました。
一生懸命に勉強もして、高卒認定試験を受検して、1回で全科目合格しました。
次の目標は大学受験として、さらに努力を続けていたのです。
そんな時に、私の知り合いのお寺のご住職からご連絡をいただきました。
宗派の広報誌的な小冊子に、不登校も含め辛い状況にある子ども達が、元気にやっていることを伝えるコーナーができたので、そこに連載をしないか、と私にご依頼とご提案をいただいたのです。
その方と私とで、宗派本山の編集部におうかがいして、詳細をお聞きして、連載を引き受けることにしたのです。
その連載は約1年という契約だったのですが、編集部の方と私とご紹介くださったご住職とで、子ども達が自分で原稿を書けたら、それを採用し、書けない場合は子どもに私がインタビューをして、それを文字起こししたものを採用することにしたのです。
私が連載の最初に選んだのは、彼女でした。
彼女は最初は考えていましたが、お父様と相談して、自分で書いてみると言ってきたのです。
その時に、彼女からはいじめられていた時のことを、自分の中でケジメとして全員本名で書きたいけれどもいいか、と聞かれたので、本名ではきっと掲載はできないけれども、それは私と編集部で調節するから、気にせず全て本名で書いていい、と伝えたのです。
期限を決めて彼女に原稿を任せました。
書くことは辛いことになるだろうな、と私は猛烈に不安でした。
それはお父様も同じでした。
いじめられていた時のことを、ありありと思い出してしまうことになるからです。
期限を1日遅れましたが、彼女から原稿を受け取りました。
2回分にわけなければ掲載できないだろうというくらいの分量の原稿でした。
早速、読んだのですが、読んでいて涙が止まらないくらい、壮絶ないじめの実態が描かれていました。
これをあの子は書いたのか!と驚嘆する内容でした。
これを描けたのなら、もう大丈夫だとも思いました。
ご紹介いただいたご住職にもメールでお送りして、すぐに読みいただきました。
ご住職も驚かれていたのですが、少し私とはなぜかトーンが違いました。
ご住職から、すぐに編集部に届けて欲しいと言われ、翌日、編集部に持っていったのです。
そこで、編集長が私の目の前で原稿を読まれました。
編集長の目が驚きだけでないことは、すぐに見て取れました。
編集長から、実名では出せないこと、2回に分けることを伝えられたのですが、編集長は目の前で原稿を全てコピーを取られ、私に彼女の原稿を2回目からにしたいので、至急、私に1回目の原稿を書くようにおっしゃったのです。
そこには有無を言わさない編集長の厳しい表情がありました。
実は、この原稿が元で、大きなこの仏教宗派は大混乱に陥るのです。