前回言及した Hecke の教科書はよく考えると,1923年の独語版そのままなので,その後の進展が反映されていないのは当然であった。例えば有名な「ヘッケ作用素」などは出て来ない。記述内容がある意味「枯れている」のだ。それが今でも歓迎される理由の一つかもしれない。巻末にある数学者の生没年表などは,少し後に出た高木貞治『初等整数論講義』にも踏襲されている。ちなみに Hecke (1887--1947)及び Takagi (1875--1960) であるが,共通の師 Hilbert (1862--1943) の下で若い頃に出会っていたのだろうか。 

 

これとは別に『ヘッケ著作集(Werke)』というのがあり全 42 編が収録されている。現物はアマゾンで6万円の値が付いている(!)。けれども目次を辿れば掲載誌 Math Annalen や Math Zeitschrift などは原論文にアクセスできる。またゲッチンゲン大学の紀要論文なども入手できる。他に ICM (1936) Oslo の基調講演も公開されているので,これらで全体の8割近くが入手できてしまう。残念ながらハンブルグ大学の紀要は Springer が関与していて普通には読めない(一編あたり5千円近くを払えという)。既に著作権は切れているので Springer のこの行為は許せないものだ。とにもかくにも半日近くを掛けてほぼ全ての収録論文の pdf を入手したのが昨日のことだ(上記紀要論文の入手方法はここには書けない)。

 

かくして Werke の収録論文も,実際に読むかどうかはともかく(笑),手段を駆使すれば高額負担することなく入手可能なのである。こと数学に関しては良い時代になったものである;この点残念ながら物理は未だ数学の後塵を拝しているようだ。私の知りたいことがこれらの論文にあるのかどうか,これから検証作業が待っている。