母の日のカーネーション、 

ピンクや赤が店頭を飾りましたが、 

それよりもシックな雰囲気の

 紫がかったものを 

選んだ方もいらっしゃるかもしれません。


 カーネーションの色を変えたのは、 

「青い薔薇を作りたい」と

 研究を重ねた人々の成果。 


 そこから、青い色素を持つ薔薇の 

研究方向が正しいことが

 確認されたのです。


 古来より、「青いバラ」は、 

「不可能」「存在しない」の 

同意義語とされてきました。 


 それもそのはず、

 青いバラは自然界にはないもの、 

すなわちバラは 

そもそも青い色素を持っていないのです。


 それでも、

権力者たちや植物を愛する人々は

 花々の女王、バラが青く咲いたなら 

どれほど美しいものだろう、と 

追い求めてきたのです。


 人工交配による品種改良で

 赤い色素を抜いていき、

 青に近づけていく…。 


 このやり方で限りなく

青に近いバラを作り出したのは、 

栃木のアマチュア園芸家、小林森治氏。


 人生をかけて青いバラを

 咲かせることを目標とし、 

バイオテクノロジーを使わない 

極めて青に近いバラを 

作ることに成功しています。 


 バイオテクノロジーを使った、 

本当の意味での 

「青いバラ」を作り出すことに 

成功したのは日本の企業、サントリー。


 課題はふたつ。 

 青い花に含まれる遺伝子(数万種)の中から

青色遺伝子を取り出すこと。 

 

 もうひとつは、その遺伝子を

バラの細胞に入れ、 

その細胞から遺伝子組換え青いバラを 

作り出すこと。 


 始まったのは、1990年。 

 1年半後、ペチュニアから 

青色遺伝子を取得することに成功します。


 この遺伝子の特許を取れたことが

 多くのライバルから 

一歩抜けた存在になることができました。


 次の段階に進みます。 

 青色遺伝子を入れたバラを

 咲かせてみたものの… 

赤いバラしか咲きません。 


 何度やっても、 

青色遺伝子を持つのに

 青色色素を持たないバラしか咲きません。 


 しかし、このペチュニアからとった

青色遺伝子は、 

青色色素を持つカーネーションを 

咲かせることに成功します。 


 青色色素を持つ紫色のカーネーションは、

 「ムーンダスト」と名付けられています。


 方向性は間違っていない。

 ペチュニアのみならず、 

パンジーからも青色遺伝子を  

取得し、徐々に青色色素を持つバラも 作れるようになってきました。


 しかし、遺伝子導入できるのが 

赤いバラのみだったため、 

青色色素を持っていても色が黒ずむ程度。


 青いバラ、とは

とても呼べない状況が続きます。 


 10年が過ぎ、研究員たちは

日々細胞に遺伝子を入れ、 

結果を待つ作業を行います。  


そして、ようやくバラの色に

 青みが出てくるようになっていきます。


 より青いものを選び出し、 

少しでも、青であるように…。 


 そして、2002年、 

青色色素が100%近いバラを 

安定的に咲かせることに 

とうとう成功します。 


 2004 年に発表すると

 世界中の話題になります。

 遺伝子組換え植物であるため、 

農林水産省と環境省の許可を得て

自然界に広がらないことを証明し、

 販売できるようになったのは、2009年。 


 20年近くの歳月がかかりました。 

 「SUNTORY BlueRose Applause」 

「喝采」と名付けられた青いバラ。


 青色色素の精度をさらに上げ、 

まさに「蒼い」薔薇を作り上げるために

 今も研究室では日々実験が続けられています。


 青いバラは「不可能」から 

「夢叶う」と、花言葉が変わりました。


 薔薇満開の季節、 

色とりどりの香り高いバラを 

目にすることができます。 


 夢が叶った青いバラ、 

しかしバラ苑には 

植えられることはないであろう、

 人が自然に挑んで得た青いバラ。 


 艶やかな赤や黄色やビンクのバラとは

 どこか違う、 

 密やかな魅力を持つ青い薔薇。 


 不可能はない、

存在し得なかったものも、

 存在することもできる、 


青い薔薇の魅力は

そこにあるのかもしれません。