美味しいものを食べられるのは、
権力者の特権。

美味しいものは、取り寄せる。

美物(うましもの)があるのは、
若狭。

現在の福井県、若狭湾に面したそこは
古代から「御食国(みけつくに)」と
呼ばれ、

塩や海産物といった食材を
始めとする物資に人もと、
様々に都と深い関わりのある
大切な場所だった。

湊町、小浜は大陸と都を繋ぐ
港湾都市として栄え、

南蛮船が象や孔雀を運んできては 
人々を驚かせたという。

織田信長が、浅井・朝倉を
攻め落としたかったのも、
彼らの勢力が強い、
この都と大陸を結ぶ地域を
手に入れたかったから。

若狭町の熊川宿は
重要伝統的建造物群保存地区として、
今も当時の街並みを誇っている。

通称「鯖街道」

一日千頭もの牛馬が荷物を
背負って行き来したという。

若狭の海で豊富に採れた
新鮮な鯖に塩をして、
京都までせいぜい十八里、
といいながら、
商人たちは鯖を背負い、
山道を超えていったという。

十八里って72㌔あるけれど。

へしこやなれずしといった
保存食も作り出されていく。

若狭から都へ、
食材や大陸からの物資が 
運び込まれ、

都からは文化が届けられる。

熊川宿には廻船問屋の邸宅や
桃山時代の世界地図屏風があったり、
若狭塗は南蛮の影響を
受けていたり、

祇園祭りの系譜をひく
華やかな祭りや山車が
人々の生活を彩っていく。

小浜はおばま、と読むため
オバマ大統領が誕生したとき
注目を浴びたこともある。

日本海側の華麗な歴史や
継承されてきた文化は、
地元や愛好家のものとなり、

なかなか多くに知られていない。

日本人よりも日本を愛する
外国人のほうが知っているかも
しれない。

昨今は鰯や鯵よりも
身近になってきた鯖。

1500年もの昔から
鯖を背負って、塩を背負って、
若狭から都に向かい
それを心待ちにしていた、
都人たちがいた。

北前船で多くの物資も人も
運ばれ、港は華やいだ。

かつてのそんな人々の
活気あふれる笑顔と勢いを
思い起こしながら、
鯖を手に取ってみる。

明日3月8日は、語呂合わせの
サバの日だそうで、
ちょうどいい。

このところは、
北欧生まれもよく顔を出しているけれど
それも新たな鯖街道といえるのかも。