岡本太郎は、強烈に
愛された人だった。

彼自身が生まれながらに
持つパワーが
それを引き寄せたのか、
愛されたから、
力をより持てたのか。

太郎の母、かの子は、
大地主の娘として生まれた。

大切に育てられたが、
生け花やお茶といった習い事も、
家事一般もまるで出来ない。

文学が好きで、琴が上手な
かの子を、
両親は理解していた。

あの子は普通に暮らすことは
無理だろう、
琴の師匠として
ひっそり生きていくしか
道はないだろう。

ところが、そんなかの子と
結婚したいという男が現れた。

美男でプレイボーイの
岡本一平である。

純粋で天衣無縫な
かの子に魅せられたのだ。

しかし、元々生活力の
全くない二人。

漫画家として認められた
一平は、家に金を入れず
遊び歩いて帰ってこない。

太郎を生んだものの、
家事も出来ないかの子は
食べるものもなく
寒さをしのぐことも出来ず、

人に頼るとか
金を借りるということも
せず、

したがって太郎の世話も
全く出来ない。

いつも書き物をしていて、
太郎がじゃれつくと
柱や箪笥に縛り付ける。

どうしていいかわからずに、
太郎を叩く。

かと思えば、幼い太郎に
「二人で巴里に行きましょうね。
シャンゼリゼで馬車に
乗りましょうね。」

と、繰り返し囁く。

そんな生活の中で
かの子は精神のバランスを
崩してしまう。

ようやく一平は
自分のしてきたことを
反省し、かの子を
大切にするようになる。

「君を世界一幸せな女にしてやる」

かの子は歌人として
仏教研究家として
小説家として
活動するようになり、

同時に自分を慕う青年を
夫とともに
同居させるようになる。

太郎は自宅の
目と鼻の先にある
慶應義塾の寄宿舎に
幼くして入れられ、

両親は全く構ってくれない。

たくましく育つわけである。

そんなかの子について
太郎は語っている。

「本当に駄目な母親だった。
けれども、
大変素晴らしい
芸術家であり、
あんなユニークなかわいい女性と
大変親しく付き合ったことは
自分の生涯の幸せだ。」

太郎がパリに向かったのは、
一平がロンドンへ
仕事のために
かの子とかの子の彼と
渡英するときに、
太郎も同行したからである。

しかし、太郎がパリに
いる間にかの子は病死、

非常に悲しんだと言われている。

そんな独特な母親を持った
太郎の生涯のパートナーと
なったのは、敏子。

始めは太郎の秘書となり、
事実上の妻であったが、
戸籍上は養女。

これは、両親の関係から
太郎が夫婦というものに
疑問を持ったとか、

あるいは妻だと、
遺言状を残さないと
異母兄弟に遺産の一部が
渡ってしまうが、

養女にすれば、
すべて彼女のものになるから、
とも言われている。
(おそらくこちら。)

敏子は常に太郎と共に
悦び、
太郎の才能を心から
賛美し、
太郎と共にあり、

彼女がいなければ
太郎はここまでの存在に
成らなかっただろうとも。

太郎の言葉を書き取り、
二人でそれについて語り、
さらに膨らむ。

太郎の著書は敏子が
まとめたもの。

太郎が亡くなったあと、
岡本太郎美術館の館長として
作品を管理し、

メキシコで発見された
太陽の塔と並ぶ傑作とされる

幻の壁面、
「明日の神話」
(原爆が炸裂した瞬間を
描き、生と死をモチーフに
している)の
修復を成し遂げている。

「明日の神話」は
現在、渋谷駅に
パブリックアートとして
展示されている。

敏子については、
彼女の多くの名言から
感じ取ってもらえると
よいと思う。

最高のパートナーシップとは、
こうなのか、と。

゛自由である、ということが
男の魅力の前提条件だ。゛

゛賭けなきゃ。
自分を投げ出さなきゃ
恋愛なんて始まらないじゃない。゛

゛素敵な男でなければ、
女はつまらない。
男をそういう、
魅力的な存在にするのは、
実は女の働き、役目なのよ。゛

゛女性が男の人のはなしに
心から耳を傾けること。
うわぁ、素敵、それで?
と眼を輝かせて夢を
聞いてあげること。
それだけでいい。゛

゛みんな自分が大事で、痛いのは嫌。
それでは「生きている」
という実感はつかめない。゛

゛あんなに素敵な人がいたんだぞってことを
もっともっとみんなに
教えてあげたい。
太郎さんのような人が
本当に日本に生きていた、
ってことは奇跡よ。゛

゛誰も認めてくれなくたっていいの。
わたしっていいなぁ!って
ときどきにっこりして、
自分を抱きしめるの。゛

゛恋なんて若気のいたりだ、とか
いまさら、そんな、とか。
なぜ?
八十や九十になって、
若気のいたりをやってはいけないの?゛

゛お互いに相手を引き出すの。
自分だけでは「自分」に
なれないもの。゛