銀のしずく ふるふるまわりに
金のしずく ふるふるまわりに




これは、アイヌにつたわる
梟の神が語った物語の
冒頭の部分。

豊かで、美しい北海道、
いや、アイヌモシリの
風景が浮かび上がって
くるようです。

アイヌは文字を持ちません。

この詩~カムイユカラの数々~を
わたしたちに
教えてくれたのは、
知里 幸惠。

大正11年に、19歳で
病のために世を去った
アイヌの女性です。




カムイユカラの謡い手で
あった祖母から
アイヌの伝統を学び、

成績優秀で進学し、
アイヌ語も日本語も、
英語までも堪能。

アイヌの伝統文化を
記録しようとする
言語学者 金田一京助氏に
出会い、

カムイユカラを表記、
そして日本語に翻訳する
作業を始めたのです。

「その昔、この広い北海道は
わたしたちの先祖の自由の天地で
ありました。
天真爛漫な稚児のように
美しい自然に抱擁されて
のんびりと楽しく生活して
いた彼らは、
なんという幸福な人たちで
あったことでしょう」

ですが、ロシアの脅威、
和人の侵攻で
アイヌたちは追い詰められていきます。

「その昔、幸福なわたしたちの
先祖は自分のこの郷土が
末にこうした惨めな
ありさまに変わろうなどとは
露ほども想像し得なかった
のでありましょう」

そんな中、

「愛するわたしたちの先祖が
起き伏す日頃互いに
意を通ずるために用いた
多くの言葉、いい古し、残し伝えた
多くの美しい言葉、
それらのものもみんな果敢なく、
亡びゆく弱気ものと共に消失せてしまうのでしょうか。
おおそれは、あまりにもいたましく名残惜しい ことで御座います。」

彼女が遺してくれた
゛アイヌ神謡集゛

謡い手は
梟の神、海の神、狐、兎、
谷地の魔神、蛙…

正しい神もいれば、
悪い神、どうしようもない
生き物もいる。

悪い神や、小者の動物は
「オキキリムイ」に
倒されます。

オキキリムイはアイヌの
英雄神で、アイヌ民族の
祖とされます。

自然のすべてが人間の
味方ではなく、
敵でもない。

人も自然の一部として
共に生きていく。

「土人」として和人に 
同化するよう、
自らの文化を封印させられて  
きた、アイヌの人々。

未だに、出自を明らかに 
したくない人々も 
多いようです。

ようやく、アイヌ文化が
素晴らしいものとして
受け入れる素地が
出来つつあるような
昨今です。

幸恵の「アイヌ神謡集」は
アイヌ文化を認めさせる 
大きな力を 持った、と
高く評価されています。

なお、弟の真志保は
言語学者になり、
アイヌ初の北大教授と 
なりました。

この天才姉弟が
アイヌ文化を消滅から
救った、と言われています。

では、響きが素敵な
狐の謡の一節を。

トワトワト
シュマンツヌ  チャシュチャシュ
トワトワト
ニツム チャシュチャシュ
トワトワト