外伝 「訃報 3」

 

「人が上手く生きていくことは、諦めと執着を適度に持ち併せることだ」

 

通夜の翌日は火葬だった。

この日も空は快晴だった。

ここは本当に北国なのか?

 

そして両親2人同時の火葬になった。(厳密には誤差10分だが)

これは叔父様の”ちから”が大いに働いたらしい。

そして、火葬場でも珍しいことらしい。

 

お義母さんの遺影を胸に抱え、霊柩車に乗り込む彼の背中からは、

どこか諦のような寂しさを感じた。

 

最期のお別れの時がやってきた。

何故か参列者の中で私だけが泣いていた。

 

本家の叔父様の奥様(ラスボス)は、お義母さんの棺に手をつき、

何やらわざとらしい謝罪のセリフを言っていた。

 

 

ゲンナリ…絶対、本気で思ってない。

 

 

相変わらず、腐敗が進んでしまったお義母さんの棺のトビラはとざされたまま…

 

 

「お義父さん、お義母さん、さようなら…」合掌。

 

 

お骨になるまで待合室のような場所で、女性陣が用意してくれた、

お茶やお菓子をつまみながら、その時を待った。

 

彼いわく、田舎ではオトコ衆は雑事には一切、関わらないのだそうだ。

家事的なことがいまだに女性の役割らしい。

 

なんとも時代錯誤な風習なんだ。

東京で揉まれて生きてきた私には、絶対ここでは生きていけないな。

 

 

しばらくすると、彼に呼ばれた。

せがまれるまま、セミの鳴き声がうるさいほどの外に出て、

二人でタバコを吸った。彼はヘビースモーカーなのだ。

 

入り口にある大きな二本の柱の間に、無造作に置かれただけの、

水の入ったバケツが灰皿らしい。

彼自作の手巻きタバコは、私にはきつかった。

私は親戚方の目もあるので、彼をおいて館内に戻ったが、

外に一人、たたずむ彼の喪服すがたを眺めていた。

 

 

不謹慎ながら、中年オトコの色気が漂っていた…

・・・こんな火葬場でそんな事を思うなんて意外だ。

 

 

そうこうしている間に、お義父さんの火葬が終わった。

最初は少し離れたところから見ていたが、頭がい骨の部分がきれいな形で残ってた。

しかも漂白したかのように真っ白で、キレイな状態で見て取れた。

 

近くに寄るよう促され、棺を乗せた台車の周りに集められた。

それはまだ、もの凄い熱風が漂っており、

台車に触れたらヤケドしてしまいそうだった。

 

そりゃそうだ、人間一人、焼いてしまうんだから。

さっきまで、ここにいた「人」がいなくなるなんて…なんか変な気分。

 

そして、斎場の人から丁寧な説明を受けながら、参列者は人体の不思議の神秘に、

感心の声を上げていた。

 

のどぼとけ、合掌していた指先の骨、目の周りの部分…初めて見た。

間髪いれずにお義母さんの、お骨が炉より出てきた。

私はその暑さで、いやぁな汗が出てきて、座り込んでしまった。

でも、お義母さんも、お義父さん同様、キレイにお骨が残っていた。

 

あんな亡くなり方ではあったけど、最期のいきれいなお骨が見れて安堵した。

私の父は胃癌も末期だったせいか、火葬した骨は軽石のようにスカスカだった。

色も茶褐色で「のど仏」なるものなど、何一つ見なかったし、興味もなかった。

 

そんなことを考えながら、彼の「ふるさと」は幕を閉じた、と感じた。

↑は実際の同時火葬中の画像です。ご両親のご冥福をお祈りします。

 

 

そして火葬場より納骨に直行。

二人の骨壺の中に形見を入れ、お墓に入れる時、二羽の蝶が仲睦まじく、

お墓の周りをヒラヒラと舞い続けていた。

 

暑かった空も雲が覆い、風を吹かせ、参列者のからだの負担を減らしてくれた。

納骨が終わるころ、気が付けば、チョウはどこかへいなくなっていた。

 

私たちは、あの蝶が彼の両親であったと信じたい。

 

存命の間はいろいろあったようだが、

あの世では仲良く幸せに暮していて欲しいと願うばかりだ。

 

そして、葬儀より一週間もしないうちに夢を見た。

亡くなった彼のご両親から電話がきた。

「ちゃんと、供養しますからね。心配しないでくださいね。」と、わたし。

「よろしくお願いします。」と、お義父さんとお義母さん。

 

心より、ご冥福申し上げます。

 

「辛い想い出にせよ、楽しい想い出にせよ、捕らわれていたら誰も幸せになれない。それこそが、この世の悲劇だ。」

 

 

外伝 おわり

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