サントラ, 佐藤勝
日本沈没

久々に大作映画を観て、それこそ撃沈。

確かに評判悪かったのだけど、大昔に観た旧作の記憶もほとんどなかったし、まあ、いいかなぁ~と思って、レディースデーに合わせて観に行ってみた。せめて東京の震災を扱った「救命病棟24時」 レベルであればいいんじゃないかと思っていたが、とんでもない。救命病棟に失礼なレベルだった。江口洋介さん、松嶋菜々子さん、ごめんなさい、という感じ。考えたら、キャスティングだって、救命病棟の方が格段上だった。

今回のキャスティングだって、必ずしも悪いとは思わない。でもなぜだろうか。すべてが軽い人に見えた。


『日本沈没』  樋口真嗣監督 草彅 剛/柴咲コウ主演


早い話、海底プレートの急速な沈降で日本列島が沈没するという話。沈没の危機を察してから、徐々に崩壊していく過程を描いているわけだが、本作品では潜水艦パイロットの小野寺(草彅 剛)とハイパーレスキュー隊員の玲子(柴咲コウ)がストーリーの軸となっている。まあ、ここが安っぽい恋愛ドラマにしてしまった元凶なのだが…。そもそも結婚前の若い二人の恋愛を軸にした話を作るために、何千万人もの人を殺し、日本列島のほとんどの都市機能を崩壊させるなんて、あまりに国や人間を冒涜していると思う。


細かな話は観てもらうか、さまざまなサイトに載っているので割愛するが、まずご都合主義満載なうえ、この映画では肝要なはずの二人の恋愛感情の流れがきちんと描かれていない。日本が沈没するという大きな前提と、二人の恋愛、いずれも中途半端すぎる。政府関係者はなかなかおもしろかったが、それは首相役の石坂浩二が小泉首相に見え、大臣役の大地真央が小池百合子環境大臣に見えたから。首相が「中国」に日本人難民の受け入れのお願いに出向くはずの政府専用機が災害に巻き込まれて墜落してしまうなんて、なかなか皮肉が利いていると言えなくもない。結局映画のなかでも首脳会談できないままに…という(←この記述と私の政治的立場は関係ありません)。ちなみにアメリカにいとも簡単に裏切られるのも小ネタとしてはおもしろかった。


といっても、これらのことはもちろん物語の機軸とは関係がない。政府の危機管理の描き方も、二人の恋愛同様、中途半端すぎる。そもそも首相はすぐに死に、後を実質任されるのが大地真央だけで、首相代理は早々に外国に逃げちゃうのだから。大地真央だって、前提として強い女性政治家、例えばライス国務長官やヒラリー・クリントンのように設定されているわけではない。小池百合子さんに見えたくらいだし…。そもそも田所博士(豊川悦司)と元夫婦という設定にもムリがありすぎ。もしこんな政府なら、日本は既に別の意味でかなり危ない。


結末についても批判の声が多いようだが、私は国土を残したのはいいと思う。でもそれならば、その後生き残った人が何をすべきか、どこに活路を見出すヒントがあるのか、5分でも10分でも描いてほしかった。あれでは破壊しっぱなしである。これまでよりわずかな土地、わずかな人口でゼロからまた国を立ち上げなければならない実情に対して、あまりに無責任な終わり方だと思う。製作者が何も考えないで、観る人がそれぞれ考えてください、って言われてもね。


周知のようにこれは小松左京さん原作で以前に公開された作品のリメイク版だ。地球の環境は昨日より今日、明日の方が良くなっていることがない、地球は徐々に崩壊に近づいているというのが定説だ。もちろんそうではないという人もいるが、少なくとも人間の危機意識レベルは上がっているはずだし、だからこそこの作品のリメイクの意味はあったのだろう。


とにかく一体この映画が何を描かんとしていたのか、よくわからなかった。娯楽的恐怖映画なら、こんな重いテーマはとり上げないでほしいし、日本を沈没の危機に晒してまで伝えたいことがあったのなら、まじめに取り組んでほしかった。

本当に日本も地球もいつおかしくなっても、不思議ではないのだ。予告編で観たが、秋に「不都合な真実」 というアメリカの映画が公開されるそうだ。まだ観ていないので迂闊なことはいえないが、こっちを早々に観たくなった。こちらで描かれる世界がもし優れていたら、所詮今の日本人の危機意識や、危機に際した時のレベルは、中途半端な娯楽レベルと余計思い知らされるかもしれない。