「もしもし俺、相川だけど。なあ加藤、お前にもクラス会の案内状届いただろう?」
「おお、久しぶり。うん届いてるよ。高校を卒業して以来初めてだよなあ、クラス会なんて」
 それは三十数年前に卒業した高校の同級生、相川からの電話だった。相川は、卒業以来も付き合っている数少ない高校時代の友達で、今でも時折酒を酌み交わしたり一緒に釣りに出掛けたりする腐れ縁とも言える仲だ。
 俺たちが通っていた男子高校は三年間クラスが変わらず、同じメンバーで入学し、卒業したのだった。
「案内状に記してある幹事の井上って、俺には覚えが無いんだけど、どんな奴だったっけ?」
「お前は2年の時に転校してきて結構授業もサボってたもんな。井上はいつも一番後ろの席で本ばかり読んでたよ。俺は家が近くて、小中学校も一緒だったから幼馴染みたいなもんで仲良かったよ。北海道の大学に進学して、卒業した後もそのまま向こうに住み付いたらしいよ。毎年年賀状のやり取りはしてるけど、仕事が忙しくてなかなかこっちには帰って来られないらしい」

 井上は生まれつき身体が弱く、医師から激しい運動は控えるようにと言われていた。だけど、小学生の頃俺らが空き地で野球をしている時や、公園で走り回っている時も、いつも傍らには奴の姿があった。
「みんなが楽しそうに遊んでいるのを見ているだけで、僕も楽しくなるんだ」人懐っこい笑顔を見せながら、いつも僕らが遊んでいるのを見ていた。
 読書好きの奴はいつも何かの本を読んでいた。読書から得た知識は豊富で、俺らのどんな質問でも丁寧に解りやすく答えてくれるので結構人気者だった。 
 高校に進学した井上はますます本好きが高じ、3年間図書委員をつとめ、読書好きの仲間と同好会を結成したりしていた。体調は少しづつだが、良好になっていたようだが相変わらず運動は控えていた。

 三十数年ぶりの再会にみんなは興奮し、クラス会は大いに盛り上がった。懐かしい昔話に花が咲いたが、中年になった僕らは病気の話しでも盛り上がった。やれ高血圧だの、やれ糖尿だの、病気自慢かと思われるくらいだった。
「なあ井上、お前昔は身体が弱くてひょろひょろだったけど、今日来ている中では一番血色が良いんじゃないの?もしかして、成人病の奴らにそんな自分を見せたくてクラス会を企画したのか?」少し血圧が高い僕はちょっぴり意地悪なことを井上に聞いた。
「北海道が肌に合ってるのかもしれないけど俺、子供の頃から節制して生きてきただろう。大人になっても当たり前に節制しててさあ、それが良かったみたいでだんだん元気になったんだよ。俺さあ、休みがちで学校に居るときは本ばかり読んでいたじゃん。でも、そんな俺をみんなで気遣ってくれて、ものすごく感謝しているんだよ。加藤とは小学校から高校までずっと一緒でさ、俺のこと1番分かってくれてたしな」
「あ、ああ、いつも学校には一緒に行ってたしな。そう言えばお前が休みだとプリント持って行ったりしたよな。お袋さんにお駄賃だってお菓子もらったりしてたよ。高校も3年間クラスが一緒だとさ、もうただの友達って言うよりは皆んな何か別の絆みたいなもんが有ったよな。うちらのクラス良い奴ばっかりだったしね」
「今の時代はイジメが問題になってるけど、俺もあの時に誰かにイジメられてたら、きっとこんなに元気になっていないと思うよ。今日はみんなに『ありがとう』を言いたくて、恩返しのつもりで幹事を買って出たのさ」
 意地悪なことを聞いた事を俺は恥ずかしくなった…… 
 井上の笑顔は昔と全然変わっていなかった。
fin