〈おいしい洋食のおはなし ハンバーグ編〉


 私とあなたの出会いはお互いの友人の結婚披露宴でした。


「このステーキ、食べていいよ。俺、肉は挽き肉料理しか食べられないんだ」

「え!本当にいいの?和牛のステーキだよ、これ!こんなに美味い肉を食えないなんてお前、人生だいぶ損してるよ」

「俺にとってのステーキは"ハンバーグステーキ"!だから全然人生損してないよ。ハンバーグこそ最強だね」


 私は中高の女子校が一緒だった親友の結婚披露宴に招待され、仲良しグループだった5人とテーブルを囲んでいました。

 大きな声が聞こえる隣りのテーブルは新郎のお友達が数人、もうお酒もまわっていい調子になっています。

 ステーキが食べられないと言っていたあなたは他の皆んなよりちょっとおとなしそうな感じです。友達の話しに頷いたり笑ったりしているけれど自分から積極的に話しをするっていう風には見えませんでした。

 そしてあなたは最後のデザートを食べる時、とても幸せそうな笑顔を浮かべていました。私は思わずその笑顔を見て微笑んでしまいました。

 

 2次会のパーティーではお酒がまわって出来上がっている他の人たちから外れて、バイキングのお料理につきっきりのあなた。ハンバーグやミートローフ、肉団子などを美味しそうに頬張っています。

 私は思わず声を掛けてしまいました。

「あのー、私、披露宴で隣のテーブルに座っていた者ですが、ステーキがダメだって言ってましたよね」

「あっ、見られてましたか?確かに、男のくせに恥ずかしいんですけど、肉は挽肉以外は全然ダメなんですよ。そのかわり、ハンバーグや挽き肉料理は大好きなんですけどね!」

 いきなり話しかけてちょっとビックリしていたけど、好きな食べ物の話しになると目を輝かせ始めました。

「披露宴のご馳走も良いけれど、僕はバイキングの料理っていろいろ物が好きなだけ食べられて大好きなんですよ!実はこのホテルってバイキング料理がとても充実しているって噂を聞いていたので今日はこっちの方を楽しみにしていたんです」

 仲のいい友達は先に帰ってしまったので私もそろそろ帰ろうと思っていたけど、あまり気にしていなかったバイキングのお料理を見ていたらなるほどとても美味しそうなので一緒に頂く事にしました。

 あなたのほのぼのとした人柄はノンビリやの私と妙に波長が合い、それからお料理を頂きながら色々なお話しをしました。

 そしてその出来事がキッカケであなたと私のお付き合いが始まりました。


 とにかくハンバーグ好きなあなた。「ここのハンバーグは絶対きみにも食べて欲しいんだ!」って初めてのデートではあなたの行き付けの洋食屋さんに連れて行ってくれましたね。

 あなたの住んでいるアパートの近くにあるその洋食屋さんは夫婦2人で営んでいる小さなお店です。

「君がこんなに可愛い女の子を連れてきてくれるなんて思ってもいなかったヨ。今日は大サービスだ!」

 気の良さそうな洋食屋さんのご主人にあなたは気に入られている様子。帰り際には「こんな奴ですけど宜しくお願いしますね」何て言われてしまいました。

 それから2人はデートの度に、いろいろなハンバーグの美味しいお店に行きましたね。

「ココのハンバーグのデミグラスソースはコクがあって絶品なんだよ」「ココはね和風の美味しいハンバーグがあるんだよ」ハンバーグを食べている時、ハンバーグについて語っている時のあなたは本当に幸せそうです。


 今日は出逢ってから3度目のあなたの誕生日。

「たまにはお洒落をして出かけましょうよ」と私がホテルのレストランに誘っても乗り気じゃないあなた。

「いや、いつもの洋食屋がいいよ。堅苦しいのは苦手だし、今日は落着いて君と話しがしたいんだ」

「話しならいつもしてるじゃない。でもあのお店が良いのならそうしましょう」

 結局、いつもの洋食屋さんのテーブルについた私達。

 今日もジューシーに焼き上がったハンバーグの香りに包まれる幸せな美味しい時間。私にとってもこのお店はとっても落着ける場所になってきたみたい。

 でも、それを目の前にあなたの様子がいつもと違う。何だか落着きがない……

「どうしたの? 何か気になる事でもあるの?」

「いや、そうじゃないんだ……」お店のご主人が心配そうにこちらをチラチラ見ているし、あなたもご主人の方をチラチラ見ている。

 そして意を決したように唐突に切り出されました。

「僕の為にハンバーグを作ってくれませんか?君が作るハンバーグが食べたいんだ!そして、僕も自分で作ったハンバーグを君に食べてもらいたい。そんな生活をこれから君と一緒に過ごしたいんだ!」

 え?それはあなたのプロポーズなの?いきなりでチョッと面食らったけど、実はあなたの言葉を待っていた私。心はもう決まっていました。

「は、はい!こちらこそよろしくです! 実はね、あなたに作ってあげようとお料理の本を買い込んで美味しいハンバーグの作り方を勉強していたんだよ」あなたは満面の笑顔でお店のご主人と奥さんに結果を報告している。

「おめでとう!君達はお似合いのカップルだよ! 実はこいつね、プロポーズの言葉はなんて言えばいいんですか、なんて俺たちに聞くんだよ。だからね、結婚したら彼女に一番してもらいたい事と、してあげたい事を言ってみなよって助言したんだ」

 プロポーズの言葉を相談するなんて本当にあなたらしい......


 お料理がチョッと苦手な私です。一生懸命がんばるけど、美味しいハンバーグが作れるまでは、もうちょっとこのお店のお世話になりましょうね。

       ーFin