「…………ん」
ゴツゴツした冷たい床の感触に寝心地の悪さを感じて、
のそりと目を覚ます。
「……夢…か」
いつの間にか眠ってしまっていたのか、
随分と懐かしい夢を見ていた。
遥か遠い、150年も昔の出来事。
オレと龍馬さんが、
ふたりでひとつだった頃の恋しい記憶…。
「…龍馬さん、覚えてるかな」
虚しいひとり事を呟きながら、
おもむろにスマホを取り出して電源を入れる。
龍馬さんとの電話を終えた後、落としたままだった。
ほわりと青白い光を浮かべて起動し始める、文明の利器。
オレと龍馬さんを繋いでくれる、唯一の道具。
…だけど、
覗き込んだ画面、
そこに表れた文字を見て、
オレは思わず我が目を疑った。
「新着メール38件!?」
未だかつて、そんなに一気にメールが来た事はない。
せいぜい2~3件って所だろ!?
「…なっ、誰だよ…っ!?」
急いで指を滑らせ、その正体を探る。
すると……。
「……ぇっ、全部…龍馬さん…?」
トクン…ッ。
切なさで甘く鳴る胸の鼓動。
でも…、
一体なんでこんなに…?
同時に押し寄せてくる不安の足音。
「龍馬さん……?」
恐る恐る1件目を開くと、
そこには辿々しい文字でオレへの謝罪が綴られていて。
“しようた すまん”
“しようた とこにいる”
“しようた わるかた”
「………………」
相変わらず濁点とか小さい“つ”とかはメチャクチャだけど、
順に開く度に出てくる謝罪と、オレを心配する言葉。
「……………ぷっ」
たまらなくなって小さく吹き出し、髪をクシャリとかき上げた。
「…くっくっくっくっ、あは、はははは…っ」
愛しくて、
恋しくて、
悔しくて、
憎らしくて、
どうしようもなく、
好きだ……。
うじうじとオレは何を悩んでたんだろう。
何も心配する必要なんてなかったじゃないか。
龍馬さんはこんなにもオレを…。
つぅ―…っと一筋、優しい雫が頬を伝う。
「龍馬さ……」
想い人の名を呼びかけたその時、
――…ピンポーン♪
不意に玄関の呼び鈴が鳴った。