『六つ花とひだまり』⑪ | 乙葉BOX

乙葉BOX

風のように、月のように。




 
「…………ん」


ゴツゴツした冷たい床の感触に寝心地の悪さを感じて、
のそりと目を覚ます。



「……夢…か」


いつの間にか眠ってしまっていたのか、
随分と懐かしい夢を見ていた。


遥か遠い、150年も昔の出来事。


オレと龍馬さんが、
ふたりでひとつだった頃の恋しい記憶…。



「…龍馬さん、覚えてるかな」


虚しいひとり事を呟きながら、
おもむろにスマホを取り出して電源を入れる。


龍馬さんとの電話を終えた後、落としたままだった。


ほわりと青白い光を浮かべて起動し始める、文明の利器。


オレと龍馬さんを繋いでくれる、唯一の道具。



…だけど、

覗き込んだ画面、
そこに表れた文字を見て、
オレは思わず我が目を疑った。



「新着メール38件!?」


未だかつて、そんなに一気にメールが来た事はない。


せいぜい2~3件って所だろ!?



「…なっ、誰だよ…っ!?」


急いで指を滑らせ、その正体を探る。


すると……。



「……ぇっ、全部…龍馬さん…?」



トクン…ッ。


切なさで甘く鳴る胸の鼓動。


でも…、

一体なんでこんなに…?


同時に押し寄せてくる不安の足音。



「龍馬さん……?」


恐る恐る1件目を開くと、
そこには辿々しい文字でオレへの謝罪が綴られていて。



“しようた すまん”

“しようた とこにいる”

“しようた わるかた”



「………………」


相変わらず濁点とか小さい“つ”とかはメチャクチャだけど、

順に開く度に出てくる謝罪と、オレを心配する言葉。



「……………ぷっ」


たまらなくなって小さく吹き出し、髪をクシャリとかき上げた。



「…くっくっくっくっ、あは、はははは…っ」



愛しくて、
恋しくて、


悔しくて、
憎らしくて、


どうしようもなく、

好きだ……。



うじうじとオレは何を悩んでたんだろう。

何も心配する必要なんてなかったじゃないか。


龍馬さんはこんなにもオレを…。


つぅ―…っと一筋、優しい雫が頬を伝う。



「龍馬さ……」


想い人の名を呼びかけたその時、



――…ピンポーン♪


不意に玄関の呼び鈴が鳴った。