『六つ花とひだまり』⑩ | 乙葉BOX

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風のように、月のように。




 
『――はぁ~、寒っ! 外、すごい雪でしたよ!』


使いから戻って部屋へ入ると、
龍馬さんは布団を頭からスッポリかぶって火鉢にあたっていた。


デッカイ座敷童みたいだ…。



『……おぉ、翔太、すまんかったのう。寒かったじゃろ』


そして掻き回していた火箸を置くと、
くるまっている布団をバサリと開いてオレに手招きをする。



『ほれ、翔太も入れ』


『…………っ』


一気に頬の熱が上がるも、
オレにそれを拒否する術(すべ)はなく…。



『…オレ、冷たいですよ?』


怖ず怖ずと傍に寄ると愉快そうに笑い、龍馬さんはバフリッと凍えたカラダを包み込んでくれた。



『はっはっ! だからこうしてあっためてやるんじゃき!』


『…ちょっ、龍馬さん…っ』


後ろから羽交い締めするみたいにギュウ…ッと抱きすくめられ、

逃げ場のない状況にあたふたするオレ…。


ホント、この人には参る…。



『…お、雪のニオイがすると思うたら、翔太の髪に六つ花が咲いちゅうぞ』


『六つ花…?』



花なんかには触れて来なかったけど…。


不思議に思って後ろを仰ぎ見ると、
ドキリとする程に優しい、穏やかな眼差しと目が合った。


無邪気な子供みたいな事をすると思ったら、

突然、こうやって大人な表情をしたりするんだよな、この人は…。


それって反則だろ。



『雪の欠片の事じゃ』


『雪のカケラ…ですか?』


『そうじゃ、雪をようく見ると、六つの花びらを咲かせた花に見えるき』



……あぁ、そうか、

“結晶”の事だ…。



『よう似合うとるが、こんままじゃと風邪を引くのう。それはちくといかん』


そう低く発すると、
龍馬さんは更にオレを引き寄せて、
吸い付くようにして首根へと顔を埋めた。



『……んっ、ちょ…、龍馬さん…っ』


はらりとかかるクセのある髪、

ふわりと香る、
“男”のニオイ…。


触れられた柔い感触に、なんとも呼べないゾワゾワ感が背中を這う。


雪のように柔らかい温かな唇と、
チロリと肌を擽る湿った舌先。



『……翔太』


『………ぁ、龍…っ』


雪のニオイを放つ六つ花を散らし、

オレ達は互いの温もりを求め、分け合い、

慈しむようにして肌を重ね合ったのだった……。