こんな夜更けにバナナかよ/愛しき実話 | p・rhyth・m~映画を語る~

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監督:前田哲
キャスト:大泉洋/高畑充希/三浦春馬
配給:松竹
公開:2018年12月
時間:120分




1959年12月,札幌市に生まれ,小学6年のときに進行性筋ジストロフィーという診断を受けた鹿野靖明さん。北海道八雲町にある国立療養所八雲病院(現・国立病院機構八雲病院)の筋ジス病棟に入所したが,家族から遠く離れ,病気の進行が早い友人たちが次々と亡くなっていく過酷な環境で少年時代を過ごす。その後,18歳で車いす生活となり,札幌近郊の北広島市にある障害者授産施設(現・就労継続支援施設)に入所。周囲の友人などから,北欧を中心に広がったノーマライゼーションの思想(障害者も健常者と同様の生活が出来る様に支援するべきという考え方)や,アメリカの自立生活運動に触れるうち,23歳のとき,障害者施設を飛び出して自立生活を開始した。しかし,当時は障害者のための在宅福祉制度など皆無に等しい時代であったことから,自ら募集したボランティアたちに,自ら介助の仕方を教えながら,約20年間にわたる綱渡りのような自立生活を続けることになる。

そんな鹿野靖明さんと,彼のもとに集ったボランティアたちとの交流を綴った渡辺一史の傑作ノンフィクション小説『こんな夜更けにバナナかよ/筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち』を実写映画化したヒューマン・コメディを今夜は紹介。監督は『陽気なギャングが地球を回す』(2006年・松竹)『ブタがいた教室』(2008年・日活)の前田哲。

北海道札幌市。幼い頃から難病の筋ジストロフィーを患う34歳の鹿野靖明(大泉洋)は,今では動かせるのは首と手だけ。24時間体制の介助が必要な体にもかかわらず医師の反対を押し切り,病院ではなく市内のケア付き住宅で,大勢のボラ(ボランティア)に囲まれながらの自立生活を送っていた。ボラたちは,夜中に突然「バナナが食べたい!」と言い出すなど,ワガママ放題の鹿野に振り回されることもしばしばだったが,どこか憎めない彼の人間的な魅力に惹かれていた。

医大生の田中久(三浦春馬)もそんなボラの一人。ある日,たまたま鹿野宅を訪れた田中の恋人・安堂美咲(高畑充希)は新人ボラに勘違いされてしまう。おまけに鹿野は美咲に一目惚れしてしまい,彼女へのラブレターを田中に代筆させる。最初は戸惑っていた美咲も,鹿野やボラたちと共に時間を過ごすうちに,自分に素直になること,夢を追うことの大切さを知っていく。だが,鹿野の病状は徐々に悪化し,ますます体の自由が利かなくなっていく。そんな鹿野には、生きているうちに叶えたい夢があった…。

これは,ノーマライゼーションの啓発でも,障害を持つ者への偏見でも,死へと向かう病苦を描く物語でもない。しかし,鹿野の奔放さとボラの葛藤を,あえて隠さずに見せ,そこから自然に理解を深めさせる。そしてストーリーの進むほどに際立っていくのは“人を思いやり,自由と夢のために必死に生きる”という,生きることの本質。10キロの減量で軽やかなキャラを演じた大泉洋から,エンドロールに登場する鹿野靖明さん本人の映像にシフトする頃,見る者ひとりひとりの心に,そんな“本質”が浮かび上がってくるのだ。

共演は他に,萩原聖人,綾戸智恵,佐藤浩市,原田美枝子 など。


映画クタ評:★★★★


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