THE 有頂天ホテル

英題：The Wow-Choten Hotel
監督：三谷幸喜
ｷｬｽﾄ：役所広司／松たか子／佐藤浩市
配給：東宝
公開：2006年1月
時間：136分

映画や演劇で，“ホテルのような一つの大きな場所に様々な人間模様を持った人々が集まって，そこから物語が展開する”表現技法を“グランドホテル方式”と呼ぶ。映画『グランド・ホテル』(1933年・MGM)で効果的に使用され，大ヒットしたため，この名が付いたと言われている。

『みんなのいえ』から５年後，三谷監督が第３作目として作り上げたのが，大晦日のホテルを舞台に，従業員と宿泊客それぞれが織りなす多彩なエピソードを，この“グランド・ホテル形式”で淀みなく綴った『THE 有頂天ホテル』。興収60.8億円，観客動員470万人というのは，現時点で三谷作品中で最高の成績を誇っている。

大晦日。都内の高級ホテル“ホテル・アバンティ”では，新年を迎えるカウントダウンパーティーまであと２時間あまり。その成否はホテルの威信に関わり，これを無事終えることが副支配人の新堂平吉（役所広司）に課せられた責務。ところが，そんな新堂をあざ笑うかのように，思いもよらないトラブルが次々と発生する。

歌手に成る事を夢見，このホテルでベルボーイのアルバイトをしていた只野憲二（香取慎吾）は，夢を諦めて明日故郷へ帰ろうと決めていた。客室係の竹本ハナ（松たか子）はシングルマザーとして一人息子を育てているが，母親としての自覚を未だ持てずにいる。息子の父親は汚職事件で世間を騒がせている国会議員・武藤田勝利（佐藤浩市）であった。大富豪の愛人・小原なおみ（麻生久美子）が宿泊する客室の掃除をしていたハナは，耳の大きな男（近藤芳正）の来室に驚き，とっさに，なおみに成りすます。新堂は，この日たまたまホテルに宿泊していた元妻・由美（原田美枝子）と再会し，今晩ホテルで行なわれる“ステージマン・オブ・ザ・イヤー”の表彰パーティーに招かれたのだと言ってしまうのだったが…。

ホテルの名前“AVANTI”は，イタリア語で「前進」の意味。他にも総支配人の二階堂源一（伊東四朗）が，ホテル探偵の蔵人（石井正則）が，筆耕係の右近（オダギリジョー）が，コールガールのヨーコ（篠原涼子）が，マン・オブ・ザ・イヤー受賞者の堀田衛（角野卓造）が，演歌歌手の徳川膳武（西田敏行）が，シンガーの桜チェリー（YOU）もマジシャンのホセ河内（寺島進）もアヒルのダブダブ（声：山寺宏一）だって「イケイケ！」とばかりに走って隠れて恥をかく。

三谷テイストの“グランドホテル方式”という玉手箱。映画へのリスペクトと，演劇人としてのメリットを，多用されているワンシーンワンカットの長回しや，自由なカメラワークを可能にする大規模なホテルのセット，そこに力量のある俳優をこれでもかと揃えて，存分に魅せてくれる代表作と言える。