桜、ふたたびの加奈子 | p・rhyth・m~映画を語る~

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監督:栗村実
キャスト:広末涼子/稲垣吾郎/福田麻由子
配給:ショウゲート
公開:2013年4月
時間:105分




SMAP主演作品特集の3回目は稲垣くん。彼のこだわりのある性格から醸し出される独特の存在感は,シーンにその姿が映るだけでも目立ちすぎず薄くなく,だから出演作は多いが主演作は少ないのかもしれない。この作品では,以前に紹介した『踊る大捜査線 THE MOVIE 3/ヤツらを解放せよ!』の凶悪犯・鏡恭一とは全く異なる“地に足がついた普通の男”を,いたって自然に演じている。

原作は新津きよみの小説『ふたたびの加奈子』。作品のテーマは“いのちの循環(輪廻転生)”で,桜の花や人間など,全てが循環で動いていることを表現するため”環”や”円”をモチーフにして撮影されている。監督の栗村実は,原作を読んで,この深淵で普遍的なテーマに惚れ込み,すぐに新津きよみの元に熱烈な映画化オファーをしたという。

桜舞う季節。小学校入学を目前に,娘の加奈子(戸田みのり)を不慮の事故で亡くした容子(広末涼子)。悲しみに暮れ思いつめた彼女はついに自殺を図るが,どうにか一命を取り留める。以来,加奈子の魂を感じるようになった彼女は,亡き娘が一緒にいるかのような生活を送るようになる。そんな容子の姿に,夫の信樹(稲垣吾郎)は彼女が現実を受け入れられず,前に進もうとしないと感じて戸惑いと苛立ちを募らせる。

そんなある日,容子はシングルマザーとして子どもを産む決意をした女子高生の正美(福田麻由子),そして正美の小学校時代の担任・砂織(吉岡麻由子)に出会う。やがて生まれた正美の子どもと接するうちに,その子が加奈子の生まれ変わりだと感じるようになる容子だったが…。

一見,坦々と描かれてゆく容子と信樹の周囲なのに,緊張感のあるカメラワークと,心をざわめかせる調性音楽によって目が離せなくなる。そしてこの不気味な静けさが,終盤の驚愕の展開を効果的にしている。オカルトチックではなく,穏やかで愛情深い“輪廻転生”の物語はまた,夫婦を再生へと導いてゆく。佇まいのある古本屋と,加奈子の祖母でもある店主・松代(江波杏子),春ごとに川面に流れる桜の花びらが,アクセントとなり時を紡ぐ。

ケチがついたのは公開翌年に,音楽を担当した佐村河内守の「ゴーストライター問題」が明らかになったこと。一時期,ソフトの出荷とTV放映が中止された。


映画クタ評:★★★★