貨幣は、法的支払手段としての価値表象物であり、貨幣の取得はそれによって表象されている一定数額の価値の取得にすぎません。したがって、貨幣は動産の一種ではあるが、通常、ものとしての個性を有せず、価値そのものと考えるべきであって、動産に適用される規定の多くは、貨幣には適用されないと解すべきです。

 

不動産と動産とを区別することは、程度の差こそあれ、古くからすべての法制の等しく認めるところです。その理由としては、一般に次の理由が挙げられます。

 

第一の理由は、不動産は財産的価値において、はるかに動産に勝るということです。歴史的にみても、封建時代においては、土地は宗家の世襲財産として特に重要なる社会的価値を有して、法律上特殊の保護を必要としました。

 

民法が、「不動産その他重要な財産」という文字を用い、不動産をもって当然に重要な財産として、これに関する権利の得喪変更を特に厳格に扱っているのは、このような理由に基づくものでしょう。

 

第二の理由は、不動産の不動性、動産の動性、という性質の差異に由来するという点です。すなわち、動産は、常にその場所を転々とするのに反し、不動産は、容易にその場所を変えないので、そのうえに存する権利を、他人に公示する方法を、異にする必要があります。

 

近世の立法が不動産については登記制度を採用し、その権利の得喪変更すべてを公簿のうえに記載して公示しているのに対し、動産については占有、つまりそのものの事実的支配を公示方法としているのは、このような理由に基づくものです。