第85条

この法律において「物」とは、有体物を言う。

 

① 法律上、排他的支配の可能なものであるという点では、発明・意匠・著作物などの、いわゆる無体物としての性格を持つ知的創作物も、有体物となんら異なるところはありません。

 

② だが、この無体物を民法上の「物」としてこれに所有権を認めたとしても、それが具有する性質上の特殊性のゆえに、その法的内容は、民法の所有権に関する規定によってそのまま規律されるのに適せず、それぞれ特許権、意匠権、著作権として特別の規定により復せしめなければならないこととなり、法技術的にはまったく無意味なものとなってしまいます。

 

③ そこで、本条は民法上の「物」を有体物に限定したものです。以上の趣旨から明らかなように、本条は、物権・特に所有権との関連において、異議を有するものです。

 

④ 本条に言う、有体物とは、空間の一部を占める外界の物質、すなわち固体・液体・気体のすべてを含むというのが通説です。有体物であっても、生きている人の身体は、権利の客体とはならないから物ではない。ただし、身体から分離した歯・毛髪・血液などの人体の一部は公序良俗に反しない限り、物として取り扱われます。

 

⑤ 法律上、物として取り扱われるのは、人の支配が可能なものでなければなりません。太陽とか星などの天体は、有体物ではあっても、民法上での物ではありません。また、空気とか海洋のように、誰でも自由に支配し利用し得るものも、物とは言えません。